「なぜ、こんなことになったのか」(2)
TPPと対峙する上で最重要の武器を無視する反TPPの論客。
TPP交渉の大筋合意を受けて執筆された三橋貴明氏による下のブログ記事の中に、どのような深刻なミスリードが含まれているか、本日は明らかにしてみたいと思います。
注目していただきたい二つの箇所に、アンダーラインを引きました。
まず一つ目の下線部。
三橋貴明氏は、
「『国際協定』(条約)は、国内法に優先する。」
と述べています。
条約 >国内法。
これは、正しい指摘です。
衆議院憲法調査会事務局が作成した資料によれば、法学者による定説も、政府見解も、この説を支持しています。
しかし、「国際協定」(条約)と、憲法との関係はどうなのか。
定説は、日本国憲法の条約に対する優位説を支持しています。
政府見解も、ごくわずかな例外を除き、一般の条約に対しては、憲法が優位に立つとしています。
日本国憲法 > 条約 >国内法
この優位関係が法学の定説であり、また政府見解でもあるのですが、なぜ、三橋貴明氏は、「TPPによって日本国民は主権を失う」危険性を指摘しながら、そもそも国民主権なるものを日本国民に対して保証する最高法規である日本国憲法が、TPP条約に対して優位性をもつという重要な事実を黙殺するのでしょうか。
三橋貴明氏は、また、次のように述べています。
「国政を変える資格を持つのは国会議員だけである。」
三橋貴明氏の、この指摘は正しいものでしょうか。
いいえ。
国政を変える資格を持つのは、国会議員だけではありません。
中学校という義務教育の場で、公民の授業を受けた日本人ならば誰でも知っているように、日本には、権力による暴走を防ぐために、行政・立法・司法の三つの権力を分離し、相互に牽制しあう、三権分立という仕組みが設けられています。

憲法が条約よりも優位に立つ以上、条約の締結や承認という、政府や国会による行政・立法行為は、裁判所による違憲審査の対象になります。
憲法と条約の関係を扱った重要な判例としては、日米安保条約の合憲性が問題となった砂川判決が知られていますが、この判例は、日米安保条約のような「高度に政治的」な条約は、違憲審査の対象になじまないとしながらも、憲法優位説の立場から、条約一般が違憲審査の対象になることを認め、特に、「一見きわめて明白に違憲無効である」条約は、違憲審査の対象になるとしています。
TPPのように、国民主権や、国民の知る権利を根底から否定するような条約が、砂川判決のいう、「一見きわめて明白に違憲無効であると認められる」ケースに該当することは、誰の目にも明らかですから、TPP条約が、裁判所による違憲審査の対象にならないわけがありません。
「国政を変える資格を持つのは国会議員だけである。」
三権分立を否定し、大多数は自民党議員が占める国会の暴走を容認する、とんでもない発言です。
日本国憲法は、私たち国民が主権を死守するために、TPP条約を批准しようとする安倍壊国グローバル政権や、TPP条約を承認しようとする売国ネオリベ政党自民党が圧倒的多数を占める国会議員たちと対決していく上で、最大・最良の武器なのですが、反TPPの代表的な論客として活躍してきた自民党党員三橋貴明氏は、TPPという亡国の危機に直面して、自らも「主人公」として「足掻き続ける」といいながらも、なぜか、憲法という国民にとっての有効な武器について完全に無視と黙殺を決め込んでいます。
そして、安倍政権がTPP条約を批准し、国会の衆参両院を牛耳る自民党議員らがこれを承認すれば、ただちに、日本国民の主権の喪失が、二度と動かしようのない既成事実となるかのように、読者に刷り込んでいます。
(つづく)
さて、これで我が国は「亡国への道」で大きく足を踏み出したわけですが、別に、
「だからもう、日本はおしまいだあ~っ!」
などという話にはなりません。と言いますか、日本が終わりだとして、どうするのですか? 我が国から逃亡しますか。そうしたければ、どうぞそうして下さい。
わたくしは嫌です。だから、日本に残り、これからも足掻き続けますし、そもそも「日本はおしまいだ~っ!」などとは思っていません。わたくしにしても、我が国の主人公の一人なのです。
先日、チャンネル桜の討論番組で、
「今後、考えるべきことは二つです。一つは、亡国をいかに防ぐか。二つ目は、亡国に至った後にどうするか」
と、発言しました。ここで言う亡国とは、国民が自らの主権に基づき、政治的な話を決定できなくなる、という意味になります。TPPを批准した時点で、日本国民は多くの主権を失います。国際協定は、国内法に優先するのです。
さらに、ISDやラチェットが含まれていた場合(含まれているでしょう)、「未来永劫、戻せない」という話になってしまうわけでございます。
とりあえず、具体的にやるべきことは二つ。
一つ目は、TPPの中身について「正しく理解」し、様々な国民に知らせていくことです。特に、国会議員に。
「国会議員にレクチャーしても無駄だよ・・・」
と、思われた方が多いかも知れませんが、我が国は議会制民主主義国家なのです。国政を変える資格を持つのは、国民の主権の束を背負う国会議員しかいません。
二つ目は、TPPにより様々な影響が日本国民に生じたとき、
「なぜ、こんなことになったのか」
について、やはり「正しく理解」し、周知することです。TPPの影響は、批准直後から生じるわけではありません。何年も、十何年もかけ、少しずつTPPに合わせて法律が変えられていき、我が国は「今と違う日本」にいつの間にか姿を変えていることになります。いかなる「今と違う日本」なのか。わかりやすい例を出せば、現在のアメリカ型社会であり、あるいは「顔のない独裁者 」の世界です。
(出典: 三橋貴明ブログ「主人公」2015年10月6日)
注目していただきたい二つの箇所に、アンダーラインを引きました。
まず一つ目の下線部。
TPPを批准した時点で、日本国民は多くの主権を失います。国際協定は、国内法に優先するのです。さらに、ISDやラチェットが含まれていた場合(含まれているでしょう)、「未来永劫、戻せない」という話になってしまうわけでございます。
三橋貴明氏は、
「『国際協定』(条約)は、国内法に優先する。」
と述べています。
条約 >国内法。
これは、正しい指摘です。
衆議院憲法調査会事務局が作成した資料によれば、法学者による定説も、政府見解も、この説を支持しています。
法律と条約の効力関係においては、同位説的見解もあるが、圧倒的多数説は条約優位説である。
(中略)
なお、政府見解は、憲法制定議会において、条約の法律に対する優位を明言するとともに、その後の国会答弁において、条約優位の根拠として本項(日本国憲法第98条2項)の規定を挙げている。
(出典: 衆議院憲法調査会事務局「『憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)』 に関する基礎的資料」2004年4月)
しかし、「国際協定」(条約)と、憲法との関係はどうなのか。
定説は、日本国憲法の条約に対する優位説を支持しています。
憲法と条約の効力関係においては、学説上、条約が憲法に優位するとする条約優位説と憲法が条約に優位するとする憲法優位説とが対立している。
(中略)
学説上では、憲法優位説が多数説である。
(出典: 衆議院憲法調査会事務局「『憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)』 に関する基礎的資料」2004年4月)
政府見解も、ごくわずかな例外を除き、一般の条約に対しては、憲法が優位に立つとしています。
一方、政府見解では、「憲法99 条の憲法尊重擁護義務の存在にも鑑みて憲法と矛盾する条約を締結することは考えられないことの指摘、 あるいは、憲法改正手続と条約締結手続との対比によって、基本的には、『条約は憲法に優先することはない』という立場を維持し」つつ、「憲法優位説と条約優位説とを一元的に捉えることなく、条約の内容によって、憲法が優先するものと条約が優先するものを区別する立場に立っている」とされる。
(出典: 衆議院憲法調査会事務局「『憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)』 に関する基礎的資料」2004年4月)
日本国憲法 > 条約 >国内法
この優位関係が法学の定説であり、また政府見解でもあるのですが、なぜ、三橋貴明氏は、「TPPによって日本国民は主権を失う」危険性を指摘しながら、そもそも国民主権なるものを日本国民に対して保証する最高法規である日本国憲法が、TPP条約に対して優位性をもつという重要な事実を黙殺するのでしょうか。
三橋貴明氏は、また、次のように述べています。
「国会議員にレクチャーしても無駄だよ・・・」と、思われた方が多いかも知れませんが、我が国は議会制民主主義国家なのです。国政を変える資格を持つのは、国民の主権の束を背負う国会議員しかいません。
「国政を変える資格を持つのは国会議員だけである。」
三橋貴明氏の、この指摘は正しいものでしょうか。
いいえ。
国政を変える資格を持つのは、国会議員だけではありません。
中学校という義務教育の場で、公民の授業を受けた日本人ならば誰でも知っているように、日本には、権力による暴走を防ぐために、行政・立法・司法の三つの権力を分離し、相互に牽制しあう、三権分立という仕組みが設けられています。

(画像出典: 衆議院ホームページ)
憲法が条約よりも優位に立つ以上、条約の締結や承認という、政府や国会による行政・立法行為は、裁判所による違憲審査の対象になります。
憲法と条約の関係を扱った重要な判例としては、日米安保条約の合憲性が問題となった砂川判決が知られていますが、この判例は、日米安保条約のような「高度に政治的」な条約は、違憲審査の対象になじまないとしながらも、憲法優位説の立場から、条約一般が違憲審査の対象になることを認め、特に、「一見きわめて明白に違憲無効である」条約は、違憲審査の対象になるとしています。
最高裁は、判決において、日米安保条約は、「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重要な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであって、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない」ので、「違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、 従って、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」であると判示し、日米安保条約が「一見極めて明白に違憲無効」であるかどうかについて審査し、その結果、同条約は違憲でないと判断した。ここで最高裁は、憲法優位説の立場から、条約も違憲審査権の対象となることを認めつつ、高度の政治性を有する条約は、「一見極めて明白に違憲無効である」場合以外は違憲審査権が及ばないとしたのである。
(出典: 衆議院憲法調査会事務局「『憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)』 に関する基礎的資料」2004年4月)
TPPのように、国民主権や、国民の知る権利を根底から否定するような条約が、砂川判決のいう、「一見きわめて明白に違憲無効であると認められる」ケースに該当することは、誰の目にも明らかですから、TPP条約が、裁判所による違憲審査の対象にならないわけがありません。
「国政を変える資格を持つのは国会議員だけである。」
三権分立を否定し、大多数は自民党議員が占める国会の暴走を容認する、とんでもない発言です。
日本国憲法は、私たち国民が主権を死守するために、TPP条約を批准しようとする安倍壊国グローバル政権や、TPP条約を承認しようとする売国ネオリベ政党自民党が圧倒的多数を占める国会議員たちと対決していく上で、最大・最良の武器なのですが、反TPPの代表的な論客として活躍してきた自民党党員三橋貴明氏は、TPPという亡国の危機に直面して、自らも「主人公」として「足掻き続ける」といいながらも、なぜか、憲法という国民にとっての有効な武器について完全に無視と黙殺を決め込んでいます。
そして、安倍政権がTPP条約を批准し、国会の衆参両院を牛耳る自民党議員らがこれを承認すれば、ただちに、日本国民の主権の喪失が、二度と動かしようのない既成事実となるかのように、読者に刷り込んでいます。
(つづく)
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