南スーダンで米中の駒として利用される自衛隊
南スーダン独立と米中結託。
アメリカも中国も参加するグローバルな防衛体制に「日本も」参加する。
これが「安保法制」や「集団的自衛権」の本当の姿です。
つまり、中国軍から尖閣諸島を守るというような、特定の「国」による特定の「国」への侵略を防ぐという、20世紀型の紛争の処置もさることながら、アメリカも中国も一体化していく「ワン・ワールド」体制(=グローバリズム)の一員として日本が参画していくこと。これが「安保法制」がもつ、隠されたもう一つの重要な側面なのです。
この場合、「集団的自衛権」は、単に特定の「国」の領土を守るために使用されるのではなく、「ワン・ワールド」体制の構築と維持のために使用されます。
(出典: WJFプロジェクト「愛国者が『安保法制』に賛成してはならない理由」2015年7月28日)
安保法制について、以前、上のように述べましたが、この記述を裏付ける事実が伝えられています。
自衛隊の集団的自衛件行使の最初の事例は「南スーダンで、米軍の肩代わりをして中国軍を警護し、中国の権益を守る」ということになりそうです。「中国の脅威」論を押し立てて強行採決した法案の最初の適用が「中国権益の擁護」であるということから僕たちが知れるのは、
— 内田樹 (@levinassien) 2015, 9月 22
まず、背景の理解のために、南スーダンが独立した2011年当時に、国際関係の専門家によって書かれた二つの記事を紹介させていただきます。
「国連の政治性(2):南スーダンの独立」
日本政府は11月1日、閣議にて、国連の南スーダンにおける平和維持活動(PKO)に参加するため、陸上自衛隊施設部隊を南スーダンに派遣する方針を固めました。規模としては、まず、1次隊として200人を来年1月~3月に派遣し、5月以降に1次隊と交代する形で約300人を送ることを検討しているとのことです(時事ドットコム.11月1日)。
(中略)
この南スーダンへの国連PKO派遣は、アフリカのスーダン南部が北部から独立する前日の2011年7月8日、国連の安全保障理事会において決定されました。
南スーダンは翌日の7月9日、アフリカ、54番目の国家として独立します。面積はおよそ64万4,000平方キロメートル(日本の1.7倍)、人口は約826万人、産油国であり、輸出の9割が石油となっています(JICAホームページ「アフリカの新国家「南スーダン」誕生」、外務省ホームページ)。
この南スーダンの独立には、米国の影響が大きいと言われています。
そもそも、独立の根拠は、2005年の紛争化していた南北スーダンの「包括和平合意」によって決められ、今年1月に南で実施された住民投票です(結果は98.8%が独立支持、Sudan Tribune, 8 February 2011)。その「和平合意」には、当時の米ブッシュ政権が深く関与しており、今回、オバマ大統領も独立を支援しました。
南スーダンの分離独立を支持したのは米国だけではありません。アフリカ外交に力を入れ、石油開発では米国と利害が一致する中国も強力に後押ししました。中国は、南スーダンが独立した7月9日、当日に国交を樹立しています(平野克己「新国家南スーダンの命運を握る米中の連携」IDE-JETRO 2011年7月)。
上記の通り、南スーダンの独立の前日に国連安保理はPKO派遣を決定していますが、国連の総会も好意的でした。国連総会は、独立後、1週間も経ない7月14日に全会一致で南スーダンを193番目の加盟国として承認したのです。
(後略)
(出典: 日本経済大学教授安井裕司氏による2011年11月 6日)
新国家南スーダンの命運を握る米中の連携
アフリカにまたひとつ国ができた。南スーダン共和国。イスラム化を進めてきたハルツームのスーダン政府に弾圧され、ながいあいだ内戦を戦いぬいた末の独立である。
スーダンにある油田の多くは南スーダンに位置する。油田をめぐる権益争いが、とくに米中のあいだでこれからくりひろげられるだろうとする観測もある。これまで投資が許されなかった南スーダンで石油開発の動きが活発化し企業競争がおこるのは当然予想されるが、だからといって米中が南スーダンをめぐって対立しているとみるのは、おそらく正しくない。もしそうなら、ハルツーム政府にもっとも影響力をもつ中国が南スーダンの独立を阻止すればよかったのである。ゼロから新しい国をつくるよりも、そのほうがはるかに容易だった。
スーダンはアフリカでは珍しく古代に遡る国家史をもつ。紀元前にはエジプトを支配していたこともあり、ピラミッド遺跡も存在する。エジプト同様ここも「ナイルの賜物」なのだ。近代になるとオスマン帝国麾下のエジプトに支配され、そこにイギリスがわりこんだ。空洞化したオスマン帝国のなかでエジプトという隠れ蓑を被ったイギリスの支配下におかれたが、それに反抗して一時は大英帝国軍をうちやぶり、独立政府を建てたこともある。マフディー運動というのだが、これをおさえこもうとする戦いがどんどん拡大して、結局イギリスはアフリカ大陸を縦断することになった。つまりスーダンは、ヨーロッパによるアフリカ実効支配の歴史的出発点であった。
(中略)
南スーダンの独立を後押ししたのはアメリカである。ハルツーム政府にテロ支援国家指定の解除をちらつかせて独立を認めさせた。国家としてのインフラがなにもない、道路すらない南スーダンに国家づくり支援を提供しているのはアメリカと、そして中国である。
中国のアフリカ攻勢は1995年にスーダン油田の権益を獲得したことから始まった。イスラム強硬派のバシール政権が1989年に誕生し、オサマ・ビンラディンもスーダンに拠点を構えていたが、1993年にアメリカによってテロ支援国家に指定され欧米企業が撤退、その空白に中国、インド、マレーシアが進出して油田開発が進められた。
アフリカのなかでもっとも危ない地域が南スーダンをとりかこむ一帯だ。海賊で有名なソマリア、オガデン地方の独立運動を抱えるエチオピア、流血が止まらないスーダン・チャド国境、反政府ゲリラが暗躍するウガンダ北部、超不安定国家の中央アフリカ共和国—この辺一帯はイスラム過激派にとって絶好の温床となっているというのがアメリカの認識である。
アフリカへの経済攻勢を進める中国も、エチオピアではシノペックの石油探査現場をオガデン解放運動組織に襲われて多数の死者を出し、ダルフール紛争ではスーダン政府への軍事支援が糾弾の的になって、北京オリンピックのボイコット運動までおこった。不得意なイスラム圏では中国もそうとう手を焼いている。
波乱含みの南スーダン独立ではあるが、このように錯綜しきった紛争構図に安全保障の網を構築する最初の一手としようというのがアメリカの意図だろう。それに中国も頷いたということだと思われる。安全保障が確保されなければ資源開発どころではない。米中のアフリカにおける利害はここで一致する。植民地時代、スーダンを支配したイギリスは南部にキリスト教を普及して、できれば南部を切り離し、英領東アフリカに編入しようという構想をもっていた。その構想が米中によって21世紀に甦ったのである。
リーマンショックが起こるまで、中国に次いでスーダンの原油を買っていたのはじつは日本だった。発電用の生炊き原油としてである。スーダンをはじめアフリカ産原油は硫黄分が少ない。とはいえ、日本の製油施設は重質の中東原油用につくられているので、アフリカの良質な軽質油をあまり必要としていない。だから日本はアフリカでそれほど中国とバッティングしてこなかった。だが、震災後に火力発電の需要が高まれば事情はかわる。
国連は南スーダンPKOに自衛隊の参加を要請した。しかし自衛隊の多くはいまだ東北各地で震災対応に従事している。派遣余力を回復するには時間がいる。
経済成長を続けるアフリカの焦点は資源開発と安全保障の確立にある。南スーダンはその象徴的な例で、これから軍と企業の同時関与が始まるだろう。それができる国はどこか。南スーダンでこれから試されるのは米中二大強国の連携である。
(出典: JETROアジア経済研究所地域研究センター 平野克己氏による2011年7月)
アフリカ有数の産油国スーダンに90年代から投資を続けた結果、南部に集中する油田に最大の権益を持つようになった国、中国。
(ちなみに、自民党政権が長く継続してきた「対中ODA=日本国民の税金」が、中国によるアフリカ諸国への経済支援のお金として活用され、アフリカでの中国の権益確立を助けてきました。)
スーダンの油田への投資と開発のために、イスラム過激派の温床ともなっている北部スーダンから、南部スーダンを切り離したいと願ったアメリカ。
この二つの大国が結託して、南スーダンを分離独立させ、国連安保理は南スーダン独立の前日にPKO派遣をただちに決定、日本政府にも自衛隊の派遣を要請。
国連は、あたかも南スーダンの平和と安定を願う中立な国際機関であるかのように振舞っていますが、南スーダンでの国連の活動には、油田開発を円滑に行いたい米中の意図が深く関与しています。
最近、可決成立した安保法制には、「改正PKO協力法」が含まれているため、PKO活動における武器使用条件が緩和されていますので、中国軍も参加しているUNMISS(国際連合南スーダン派遣団)を自衛隊が警護しなくてはならなくなりました。
駆けつけ警護、来春にも 南スーダンPKOに安保法適用
政府は、安全保障関連法の成立を受け、アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊の武器使用基準を緩和し、来年5月の部隊交代に合わせて任務に「駆けつけ警護」を追加する方針を固めた。19日に成立した安保法のうち改正PKO協力法を反映したもので、早ければ2月にも新たな任務を盛り込んだ実施計画を閣議決定する。自衛隊の活動に安保法を適用する初の事例となりそうだ。
(出典: 朝日新聞2015年9月24日)
安保法制の目的は、世界情勢を見渡せない、自称「保守」の人々が信じたように、日米が共同で「中国の脅威に対抗するためのもの」などではありません。
上に紹介した平野克己氏の文章の最後の部分が、安保法制の本当の目的を端的に示しています。
経済成長を続けるアフリカの焦点は資源開発と安全保障の確立にある。南スーダンはその象徴的な例で、これから軍と企業の同時関与が始まるだろう。それができる国はどこか。南スーダンでこれから試されるのは米中二大強国の連携である。
国家のための軍隊ではなく、企業の傭兵としての軍隊。
「軍と企業の同時関与」のための「安保法制」なのであり、それを牽引するのは、世界中に、共同で権益の網の目を広げてきた米中の二大強国です。
南スーダンは、まさにその「象徴」にすぎないのです。
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