一瀉千里の奔流となり得る日(5)

コスト要因としての「魂」。
人間と自然を、断絶し対立し合うものと捉えた西洋では、「文明の思考」と「神話の思考」を相互に媒介させることができず、この二つは、極めてラディカルな仕方で相克しあうことになりました。



しかし、少なくとも江戸時代までは、自然と人間とを一体のものとして捉えていた日本では、「文明の思考」と「神話の思考」は一つに「習合」し、有機的に影響しあうことを通して、日本人の生活や文化や共同体が営まれていました。

そのように、人々の心の深部のあり方(=「魂」)と、深く呼応しながら形成される社会は、おそらく幸福な社会であり、その中で生きる人々は、心の底からの笑顔をたたえて暮らすことができるに違いありません。江戸時代の日本は、どうやらそのような姿をしていたようで、幕末や明治の初めに日本を訪れた外国人はこぞって、日本人が皆、貧しくとも、実に楽しそうに生き生きと暮らしていた様子を記しています。

「彼らはみなよく肥え、身なりも良く、幸福そうである。一見したところ、富者も貧者もない。これがおそらく人民の本当の幸福の姿というものだろう。私は時として、日本を開国して外国の影響を受けさせることが、果たしてこの人々を本当に幸福にするのかどうか、疑わしくなる。」

(出典: 初代アメリカ駐日総領事 タウンゼント・ハリス)

「これほど簡素な生活なのに満足している住民は初めて見た。農漁業を営む千四百人の住民中、一生のうちによその土地へ行ったことのあるものは二十人といないそうだ。村民たちは自分たち自身の風習にしたがって、どこから見ても十分に幸福な生活を営んでいる」

「平野だけでなく丘や山に至るまで肥沃でよく耕され、山にはすばらしい手入れの行き届いた森林があり、杉が驚くほどの高さにまで伸びている。住民は健康で、裕福で、働き者で元気が良く、そして温和である」

「確かにこれほど広く一般国民が贅沢さを必要としないということは、すべての人々がごくわずかなもので生活できるということである。幸福よりも惨めさの源泉になり、しばしば破滅をもたらすような、自己顕示欲に基づく競争がこの国には存在しない」

(出典: 初代イギリス駐日総領事 ラザフォード・オールコック)

ですから、第二次世界大戦において、日本もナチスと同じように、「神話の思考」を根底に抱える勢力として「文明の思考」勢力に対峙したのは、たしかにその通りなのですが、「文明」と「神話」の間に深い溝を抱えていたヨーロッパの土壌の中に芽生えたナチスとは、単純に同一視することのできない、独特の背景も日本は抱えていたことになります。

しかし、「文明の思考」勢力から見れば、日本もナチスも同じように、不合理な「神話の思考」に支配された、悪しき「ファシズム」勢力に他なりませんでしたから、敗戦によって「神話の思考」は否定され、戦後の日本人は、自ら率先して、自分たちの心の中から「神話の思考」を取り除き、アメリカ式の自由主義や個人主義の感覚を身につけようと、一生懸命、自己改造を図ってきました。そうすることが日本を良い国に変えることにつながると信じられていたからです。


(後で詳しく説明しますが、上の図は話をわかりやすくするために単純化しています)

安倍晋三の「戦後70年談話」も、その延長線上にあり、日本の「神話の思考」の自虐的否定と、「文明の思考」に根ざす価値観や秩序の礼賛に彩られています。

私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

(出典: 首相官邸: 平成27年8月14日 内閣総理大臣談話)

また、「神話の思考」は、危険な民族主義を惹起する「悪しきもの」として否定されるだけでなく、「邪魔なもの」「不要なもの」としても排除されます。

「神話の思考」は、民族や伝統に基づく文化的な「差異」が生まれる温床ですから、事業や貿易を効率化するために、世界のどの地域にも適用しうる、画一化された「グローバル・スタンダード」を確定し、普及させたいと願うグローバル資本主義の立場からは、グローバリズムを推進する上での妨げとなるコスト要因に他ならないからです。

そこで、次のようなことが生じます。

国立大に文系再編の波、26校が学部の改廃計画

文系学部のある全国の国立大60校のうち、半数近い26校が2016年度以降、文系学部の改廃を計画していることが、各国立大学長を対象にした読売新聞のアンケート調査でわかった。

教員養成系学部を中心に計1300人以上の募集が停止され、定員の一部を新設学部に振り分けるなどの改革が行われる。国立大の文系に再編の波が押し寄せている実態が浮かび上がった。

文部科学省は今年6月、大学改革を狙いに、法学部や経済学部などの人文社会科学系と教員養成系の学部・大学院の廃止や他分野への転換を求める通知を出した。アンケートはこれを受け、全国立大86校の学長に7月末現在の学部の改廃計画や通知への受け止めなどを尋ね、81校から回答を得た。

(出典: 読売新聞 2015年8月24日)

国家の運営する大学が、自国の文学や歴史や思想の研究を停止し、自然科学や工学のように、どの国や地域でも無条件で適用できる普遍妥当的なことしか研究しなくなる。

これは、国家による、「神話の思考」や「魂」の否定であり、それらを継承しようとする努力の完全な放棄です。

金儲けに邪魔だから、不必要だからという理由で、国から「魂」が抜き取られようとしています。
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