場所性の破壊としてのグローバリズム

人は場所を作り、場所は人を作る。
興味深い記事を見つけました。

本当に失ったものは何か

「生活に窮して、先祖代々の土地を売ってしまった。仕方なく居候しているが、なんとなく生活にハリがない—そんな心境です」

こう語るのは、キリンビールの営業マン。キリンは'13年に、原宿にあったキリンビール、中央区新川にあったキリンホールディングス(キリンHD)などの本社を売却し、中野のセントラルパークサウスに移った。ちなみに中野のビルは自社ビルではない。

「海外事業の失敗が響いて、資金が必要になったのです。それまでバラバラだったグループ会社をまとめるという前向きな意図もありましたが、やはり古くからの本社を売却して自社ビルでないところに入るというのは気分のいいものではありません」(前出の営業マン)

そんな冴えない気持ちをさらに曇らせるのが、最近の業績内容だ。キリンHDは昨年、株式の時価総額でアサヒグループHDに抜かれ、初めて業界首位の座から転落した。また、ビーム社を買収したサントリーHDに売上高でも抜かれ2位に。業界紙の記者が語る。

「各社が新しい商品を出す中で、キリンはすでに定評がある『一番搾り』や『淡麗グリーンラベル』といった人気商品のリニューアルを行うだけだった。昔から保守的な会社でしたが、それでも本社を売却する前は名門の矜持のようなものがありました。それが自然に商品のブランド力にもつながっていたのに、『都落ち』後は、社員が自信喪失してしまっているのか、打つ手打つ手が中途半端な印象を受けます」

海外事業もふるわない。'11年にはブラジルのスキンカリオール社を約3000億円で買収するなど、海外展開を図ったが、ふたを開けてみれば高値摑みで、収益化もままならない。このままだと売却して損切りせざるを得ず、まさに資産の切り売りだ。

「サントリーが日本で初めてのウイスキー工場である『山崎』を大切にし、世界に通用するブランドに育てて行こうとしているのに対して、うちの会社にはそのような『聖地』がない。現在のように業績がふるわないときこそ、原点に立ち戻り、自社の強みとは何なのか見つめ直す必要があるのに、中野のオフィスではそういう雰囲気にもならない。魂の抜けた机上のマーケティングばかりで製品を作っている印象です」(前出の営業マン)

もう一つ、本社ビルを売却せざるを得なかった会社がある。ソニーだ。長らくエレクトロニクス部門に在籍している幹部が語る。

「品川区御殿山にあった旧本社ビルはいま解体の真っ最中です。創業翌年の'47年から本社があった土地ですから、やはり寂しい。五反田駅からの道が『ソニー通り』と呼ばれたのも今は昔ですよ」

ソニーが旧本社ビルを売却したのは、昨年4月。そして同年9月には、品川駅近くの現本社ビルの土地も子会社のソニー生命に売却している。

切り売りしているのは不動産だけではない。昨年4月にCFO(最高財務責任者)として就任した吉田憲一郎氏が事業の選択と集中を積極的に進めており、不採算分野は次々整理するという。2月18日には平井一夫社長も「赤字体質のテレビ事業とスマホ事業について売却や提携も視野に入れる」と表明している。選択と集中と言えば聞こえはいいが、売るモノがないのは間違いない。

前出のソニー幹部の弁。

「研究開発という原点を見失っては、帳簿上の演出はできても、本当の復活はありえない。ものづくりを愛する人の多くが会社を辞めてしまいましたが、中にはわざわざかつて本社があった御殿山近くにベンチャー企業を立ち上げる人たちもいる。未来のソニーはこのような会社の中から生まれてくるのかもしれません」

本社を手放す理由は様々あろう。だが、苦楽を共にしてきた聖地を失ったことは、両社の社員たちに有形無形のダメージを与えている。

(出典: 「週刊現代」2015年3月14日号より

キリンやソニーが本社ビルを手放したことが、社員のモチベーションの低下を招き、その後の企業業績にも影響しているという記事です。

私はかねがね、「空間」と「場所」は違うものだと考えています。

土地や建物といった物理的な広がりは、「空間」ではあっても、それだけでは「場所」ではありません。

そこに人間が暮らし、働き、日々の営みを重ね、長い時間をかけて歴史や文化が堆積していくことによって、「空間」は「場所」に変化していきます。

人が「場所」を作り育むと同時に、人によって育まれたその「場所」は、今度はその中に生きる人を育むようになります。

人は「場所」を作ることによって人となり、また「場所」は人を作ることによって「場所」となるのです。

ソニーやキリンが、歴史を重ねてきた本社ビルという「場所」を手放して生じた出来事は、その中で働く社員たちが、そこで紡がれてきた文化から切断され、無機質な「空間」の中に放り込まれたということです。

ただの「空間」の中では、人は、過去と現在を切り結ぶ有機的なつながりを断たれ、生き生きと立ち振る舞うことはできず、その力を十分に発揮することができません。

上掲の記事が指摘する通り、キリンと対照的なのがサントリーです。

サントリーの社名の由来は、一説によれば、「グローバリズムと神道」というシリーズ記事でも取り上げてきた、初代天皇によって祭祀が始められ、大和朝廷の厚い崇敬を受けた奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)です。

三輪山を御神体とし、本殿を持たない大神神社では、拝殿と禁足地である三輪山の間に、「三ツ鳥居」(別名「三輪鳥居」)と呼ばれる独特の形状の鳥居が置かれています。


(写真は、大神神社の摂社であり、八咫鏡が皇居外に持ち出されて最初に祀られた地(元伊勢)とも言われる檜原神社の三ツ鳥居)

大神神社の熱心な崇敬者であったサントリー創業者鳥井信治郎が、この三ツ鳥居と「鳥井」という自らの名字をかけて「サントリー」と命名したとも言われ、サントリーは、現在も、大神神社の氏子総代を務めています。

大神神社(おおみわじんじゃ)は、「御酒」(みわ)にもかけられ、酒とゆかりの深い神社です。大神神社を創設した崇神天皇の事績を記した日本書紀の条には、次のような和歌が記されています。

この御酒(みわ)は わが御酒(みわ)ならず 倭なす 大物主の醸みし御酒(みわ) 幾久 幾久

サントリーは、日本の酒造りの源流と歴史的なつながりをもとうとするだけでなく、酒の原料である天然水、その天然水の源である森を育む事業にも徹底した形で取り組んでいます。




(出典: サントリーホームページ「天然水の森」)

このように、日本の歴史や自然の中に深い根をはり、それらとの「つながり」を大切にし深めていこうとする姿勢は、まさに「場所」を育もうとする姿勢に他なりません。

多くの大企業が、日本という根から離れて多国籍化を推し進め、株主利益ばかりを追求して、低賃金の労働者を酷使し、中小企業との「つながり」を断ち、「場所」性を失って、無機質な「空間」と化していく姿とは、対極の姿がここにはみられます。

サントリーがこのような独自の姿をつらぬくことができる要因の一つに、サントリーが非上場の企業であることがあげられます。

子会社のサントリー食品が2013年に上場したものの、サントリーホールディングスの株式の約9割を創業家が所有しています。非上場の理由は、「酒の醸造には時間がかかり、短期的な利益を要求される株式公開に馴染まない」「株主に商品の味を左右されたくないから」「直接的な利益に結びつかない文化事業のリストラを要求されるため」であるそうです。

安倍政権や国際金融資本が推進するグローバリズムの猛威に晒され、資本家たちの目先の利益追求のためのシステムの効率化=「構造改革」が遂行されていくとき、大企業ばかりか、日本という国家そのものまでもが、やがて「場所」性を喪失して、無機質な「空間」、雑多な多民族が共存する、歴史や伝統から切断された、ただの日本列島へと化していきます。
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「場所」を無くす=「ホームレス」
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