グローバリズムと神道(14)

蘇る「根」や「底」の「力」。
さて、皇室側は、「記紀・律令体制」の中に、政権掌握の政治的野望を織り込んだ藤原氏の策謀に、どう対峙したでしょうか。

もちろん皇室側も、手をこまねいていたわけではありません。

最初の大きな抵抗は、仏教に厚く帰依し、東大寺や国分寺の建立に執念を燃やした聖武天皇によってなされました。

藤原不比等の父は、天智天皇と乙巳の変(大化の改新)において、崇仏派の蘇我氏を滅ぼした中臣鎌足であり、中臣氏は物部氏と同じく神祇の祭祀を司る氏族ですから、記紀や律令が整備され、「日本」や「天皇」という称号が設けられ、天皇による中央集権の制度やイデオロギーが確立されて間もない時期に、聖武天皇が、自らに用意された「アマテラスの子孫」としての御座に黙って座るかわりに、わざわざ熱心な崇仏派に転じて、狂信的といってもよいほどの熱烈な信仰を仏教に向けるようになった理由は、なかなか理解しがたいものがあります。

(追記: 京都大学名誉教授で哲学者の故上山春平氏は、『埋もれた巨像』で、律令国家「日本」の設計者であった藤原不比等が、タカミムスビ=藤原不比等、アマテラス=持統天皇・元明天皇、ニニギ=文武天皇(持統の孫)・聖武天皇(元明の孫)という関係を、記紀神話の中に織り込んだという大胆な仮説を行っています。藤原不比等は天智天皇の落胤であり、持統天皇と異母兄弟であったという説があります。また、聖武天皇は、藤原不比等の娘を母としています。)

しかし、藤原不比等が整備した記紀や律令の中に、政治的実権を一手に握ろうとする藤原氏の野望が隠されており、そのことに藤原四子になぶり殺された長屋王の悲劇を目にした聖武天皇が気づいたとするならば、また、オオクニヌシの物語と同じく、宗教的な権威に祭り上げられることが、現実政治からの退却であることを知っていたとするならば、聖武天皇が、その枠組みから何らかの手段で離脱を試みたことは当然なことであったかもしれません。

その手段が、仏教でした。

仏教に熱心に帰依することによって、記紀と律令に基づく、また、神祇官と太政官を牛耳ることによる、「藤原氏体制」=「記紀・律令体制」=「天神体制」の枠組みを相対化することができたからです。

さらに時代が下ると、藤原氏の権力掌握を阻止する、より画期的な方法を、皇室は考案します。

それは、「院政」でした。

天皇が生前に譲位して「上皇」となり、「治天の君」という、律令の枠組みから自由な、超法規的な地位に就任することで、政治的権力を、姻戚関係によって皇室をがんじがらめにしていた藤原氏の手から奪還することが可能になりました。

なおかつ、「上皇」たちは、おおむね出家して「法皇」となったわけですが、このことも、「記紀・律令体制」すなわち「藤原氏体制」からの離脱を補強したに違いありません。

そして、この歴代の「上皇」たちが、熱心に帰依し、巡礼を重ねた土地が、「出雲」と深い因縁をもつ、地祇たちの聖地、「熊野」だったのです。

交通手段が発達した現代でさえ「熊野」はなかなかたどり着くのがやっかいな土地ですが、当時は、なおのことであり、京都と熊野の間を往復するのに一ヶ月も要したそうです。にもかかわらず、907年に宇多法皇が熊野詣を行ったのを皮切りに、白河上皇は9回、鳥羽上皇は21回、後白河上皇は34回、御鳥羽上皇は28回もの熊野御幸を重ね、その熱狂は庶民にまで広がっていき、「蟻の熊野詣」と呼ばれる熊野参詣の大行列が見られるようになりました。

上皇のみならず、「記紀・律令体制」を崩壊に導き、古代から中世への時代の移行をもたらしたもう一方の立役者である、平家や源氏といった武士たちも、「熊野」という土地と深い因縁を結ぶようになります。

その時に整備された参詣道が、いわゆる「熊野古道」なわけですが、2004年にユネスコの世界遺産に登録され、昨年2014年は世界遺産登録から10周年を迎えました。



さて、「熊野」という土地の、何が、上皇や武士たちをそんなにも惹きつけたのでしょうか。

いうまでもなく、「記紀・律令体制」が封印したはずの、あの「力」です。

(つづく)
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