森の奥に潜む力

「政治」はやがて「非政治」に圧倒される。
明治39年、明治政府は「神社合祀令」を出して、日本各地の神社の統廃合を命じました。地方自治体に神社の経費を拠出させるための合理化でしたが、当時約20万社あったといわれる神社の内7万社が廃止されたといいます。

この、政府による神社の統廃合を舌鋒鋭く批判したのが、熊野に隠棲し、18言語を解し、50もの論文がイギリスの科学誌『ネイチャー』に掲載された経歴を持つ在野の博物学者、南方熊楠でした。



南方熊楠は、「神社合祀に関する意見」という論文の中で次のように述べています。

神社の人民に及ぼす感化力は、これを述べんとするに言語杜絶す。いわゆる「何事のおはしますかを知らねども有難さにぞ涙こぼるる」ものなり。似而非神職の説教などに待つことにあらず。神道は宗教に違いなきも、言論理窟で人を説き伏せる教えにあらず。本居宣長などは、仁義忠孝などとおのれが行なわずに事々しく説き勧めぬが神道の特色なり、と言えり。すなわち言語で言い顕わし得ぬ冥々の裡に、わが国万古不変の国体を一時に頭の頂上より足趾の尖まで感激して忘るる能わざらしめ、皇室より下凡民に至るまで、いずれも日本国の天神地祇の御裔なりという有難さを言わず説かずに悟らしむるの道なり。古来神殿に宿して霊夢を感ぜしといい、神社に参拝して迷妄を闢しというは、あたかも古欧州の神社神林に詣でて、哲士も愚夫もその感化を受くること大なるを言えるに同じ。別に神主の説教を聴いて大益ありしを聞かず。真言宗の秘密儀と同じく、何の説教講釈を用いず、理論実験を要せず、ひとえに神社神林その物の存立ばかりが、すでに世道人心の化育に大益あるなり。八年前、英ヘンリー・ダイヤー、『大日本』という書を著わし、欧米で巡査の十手を振らねば治まらぬ群集も、日本では藁の七五三繩(しめなわ)一つで禁を犯さず、と賞賛せり。この感化力強き七五三繩は、今や合祀のためにその権威を失いつつあるなり。合祀が人情を薄うし風俗を乱すこと、かくのごとし。

神社のもつ、言葉や理屈を超えた感化力という、鎮守の森の奥に潜む「非政治の力」が、合理化を求めて神社合祀を推し進めた「政治の力」によって脆弱化される危機感を南方熊楠は訴えたのですが、数多くの神社の廃絶という明治政府の失政にもかかわらず、今でも、多くの日本人が、「何事のおわしますか」知らぬままに昔と変わらぬ姿で祈っている姿を見ると、そこに私はささやかな希望を感じずにはおれません。

「政治」に着目すれば、自民党に政権を与え続ける日本人の稚拙さに絶望せざるを得ないのですが、「非政治」に着目すれば、言葉や理屈を超えたレベルで頑迷に日本人でありつづけようとする日本人の習性に、「日本人も捨てたものではない」と感じるのです。

明治政府による「神社合祀令」が日本の形を歪めたように、「政治」はもっともらしい言葉や理屈を振りかざしながら、今も日本を破壊しつづけます。

それに対して、多くの日本人は無知と無関心を決め込んでいます。

しかし、それでも、「政治」は、日本を救わない代わりに、日本人を支える「非政治」の深い根に致命傷を与えることはできないのではないのか。

「政治」がもたらす傷は、根底に潜む「非政治」の力によって修復されていくのではないか。

そのような漠然とした希望を感じながら、私は祈ります。

祓いたまえ、清めたまえ、守りたまえ、幸わいたまえ、と。
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南方熊楠は本当に凄い人だと思います。安倍政権になってから、南方熊楠に蘇ってほしいと何度も夢想しました。この記事はとても嬉しかったです。
明治政府の下で神社の統廃合を進めていた役人は、自分のことを愛国者だと思っていたかもしれません。現在の自民支持の自称保守も彼らと同じでしょう。
私はWJF様より悲観的で、明治政府以降、体制側の政策が神道から奪ったり変質させたものは膨大で、取り返しのつかないまま現代の神社神道に繋がってしまっていると感じています。現代日本人の、非政治の修復力にも期待を持てません。それでも、残された物を守り伝えていきたいものです。
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