「現代を根底まで見抜く力」

世界の有機的なつながりと「根底」から現代を捉え直す。
「原始・古代社会」など、遠い過去の社会など現代と何の関係があるかと思われる人が多いかもしれない。しかし地球上をながめて、いったい純粋に資本主義だけで経済組織が成り立っている国はイギリス・フランス・アメリカ合衆国などを除き、ほとんど存在しない。すなわち、「経済学」という学問が自明の前提とし、またその成立の母体でもあったような社会—それは普通「市民社会」と呼ばれている—は十六・十七世紀以来西ヨーロッパにおいてのみ成立した社会で、むしろ例外であったというべきであろう。いいかえれば歴史の発展は不均等であって、発展の速さが同じではないし、また発展の方向がさまざまな条件の組み合わせによって異なり、いろいろな型の社会を生み出しているのである。すなわち発展の段階と類型を異にする社会が地球上には同時に存在し、しかもお互いに影響を与えあっているのである。したがって現代という段階で歴史をいわば輪切りにしてみれば、そこには原始社会や古代オリエント社会、古代西洋社会、中世封建社会、近代資本主義、社会主義などの諸段階が、それぞれの内的必然性と地域差をもって横並びに存在し、かつ絡み合い、場合によっては互いに激しくぶつかりあっているわけである。それゆえに、現代に関係ないとか、関係が薄いとかいう理由で、原始社会とか、古代社会とか、封建社会への理解は不要であると考えるのは、因果関係を何も知らないか、現代を根底まで見抜く力が乏しいことを自ら告白しているに等しい。そのような考え方や精神態度では、人類が生み出した最もすぐれた遺産をうけつぎ、これを展開し、また時代の課題をその深みにおいてとらえることなどとうてい出来ない。世界の課題を自らの課題として苦しみ、考え抜くことこそ「国際人」たる条件であるといわなければなるまい。

(出典: 中村勝己(1994)『世界経済史』講談社)

2013年に逝去された中村勝己慶応大学名誉教授の経済史の名著は、上のような書き出しで始まります。

日本もその中におかれている資本主義という経済の枠組みの外側には、十分に資本主義化されていない広大な世界の領域があり、しかもそれらの領域は必ずしも、資本主義を目指すべき最終地点として展開しているわけではなく、歴史的・地理的諸条件に根ざす独自の内的論理に従って発展している。

資本主義は、同時進行しながら独自展開する多元的な世界の、複数の潮流の一つにすぎないのだから、資本主義だけ見ていては経済学はわからない。

また、経済は、人間の生活領域の一部分に過ぎないのだから、他の文化諸領域に着目し、これと整合的な歴史像を形成することなしに、経済だけ見ていても、経済学はわからない。

人間の世界の事象は、常に、他の事象との有機的なつながりや、歴史の「根底」から、把握し直す視点が必要である。

ということを指摘した文章です。

「歴史」と言うと、私たちは、時代や地域ごとの権力者や為政者たちの事績を「歴史」と捉えがちなのですが、権力の側に立つ人々(文字を操ったのは大抵の場合、権力に属する人々でした)によって文字に書き記された歴史の「根底」には、記録にはとどめられることもなかった人々の無言の営みや感情があったはずであり、さらにそれらの人為の外側には、人知れず森にふりそそぐ雨や、人知れず大地に散る葉や花や、人知れず波打つ海原があったはずです。

歴史の「根底」まで掘り進めたときに、最後に行き当たる固い岩盤は、あらゆる人間的な情緒や感傷を排した、言葉の真の意味での「自然」ということになるわけですが、その「根底」に立つ、巨視的で俯瞰的な視点から、なおかつ、現代の世界に起きている課題を「自分の課題」として捉える姿勢が大切なのだと思います。

現代に関係ないとか、関係が薄いとかいう理由で、原始社会とか、古代社会とか、封建社会への理解は不要であると考えるのは、因果関係を何も知らないか、現代を根底まで見抜く力が乏しいことを自ら告白しているに等しい。そのような考え方や精神態度では、人類が生み出した最もすぐれた遺産をうけつぎ、これを展開し、また時代の課題をその深みにおいてとらえることなどとうてい出来ない。世界の課題を自らの課題として苦しみ、考え抜くことこそ「国際人」たる条件であるといわなければなるまい。

上の言葉は、目の前に展開する現代的な課題に真摯に応えるためには、古代社会や封建社会を研究する歴史家でなくてはならないという意味ではなく、「根底」にさかのぼって「深み」において問題を捉えようとする、根源的な姿勢が必要であるという意味であると思います。

そのような「根底」や「深み」に立つ根源的な姿勢においては、「知」と「行動」は二つに分離してはいません。
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