NYT田淵氏と杉浦氏の慰安婦問題をめぐる議論について

「売春婦か、性奴隷か」という一般化・単純化の向こうに広がる多様な事実を、あるがままに見る。
ツイッターで、ニューヨークタイムズの田淵広子記者と、杉浦直樹という方の間に、慰安婦問題に関する下のような議論が展開され、その中でWJFプロジェクトの記事も引用されています。

NYT 田淵記者と Naoki Sugiura 氏のやりとり

田淵氏の慰安婦理解を批判する杉浦氏に対して、田淵氏は、"「性奴隷」という言葉によって私たちが意味するものについて、日本では混乱があります。慰安所を運営することそれ自体が、「性奴隷」の行為です。"と述べ、


また、"日本も批准国である「国際司法裁判所ローマ規程」に基づく「性奴隷」の定義については、既にツイートしています。よい一日を!"、と述べ、


英語でまくしたてる田淵氏に、杉浦氏は、すっかりまるめこまれてしまったかのようです。


田淵氏に同調した杉浦氏は、ここで、WJFプロジェクトの記事を引用しているわけですが、WJFプロジェクトは、「慰安所を経営すること自体が性奴隷の行為だ」とする田淵氏の主張に同意しているわけではありません。

国際司法裁判所の司法範囲を定めた「国際司法裁判所ローマ規程」は、「性奴隷」について次のように記しています。

第七条1(g) 強姦(かん)、性的な奴隷、強制売春、強いられた妊娠状態の継続、強制断種その他あらゆる形態の性的暴力であってこれらと同等の重大性を有するもの

第七条1(f) 「強いられた妊娠状態の継続」とは、住民の民族的な組成に影響を与えること又は国際法に対するその他の重大な違反を行うことを意図して、強制的に妊娠させられた女性を不法に監禁することをいう。この定義は、妊娠に関する国内法に影響を及ぼすものと解してはならない。

第七条2(c) 「奴隷化すること」とは、人に対して所有権に伴ういずれか又はすべての権限を行使することをいい、人(特に女性及び児童)の取引の過程でそのような権限を行使することを含む。

第八条2(b)(xxii),(e)(vi) 強姦(かん)、性的な奴隷、強制売春、前条2(f)に定義する強いられた妊娠状態の継続、強制断種その他あらゆる形態の性的暴力であって、ジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為を構成するものを行うこと。

日本軍の慰安婦制度の中に、ローマ規程が定める「性奴隷」に該当する事例が存在したことは事実ですが、かといって、田淵氏が主張するように、日本軍の慰安婦制度のような「管理売春」(売春宿等を組織し運営すること)それ自体が「性奴隷」に相当するとは、ローマ規程のどこにも書かれてはいません。

下は、世界各国における売春の合法性を示した地図です。緑色は、売春が規制の下で合法化されている国、青色は、個人による単純売春は合法だが管理売春(売春宿の経営・売春の斡旋)は違法とされている国、赤色は、単純売春も管理売春も合わせて売春全般が違法とされている国を示しています。エイズ等の性病の予防のために、規制の下で管理売春を合法化する国は増えてきています。



日本の慰安婦制度は、「管理売春」=「規制の下で合法化されていた売春」に相当するわけですが、もしローマ規程が、「管理売春」=「性奴隷」と見なしているならば、ローマ規程の批准国であり、国際司法裁判所のお膝元であるオランダが、管理売春(売春宿の経営)を合法化しているはずがありません。

日本は、「売春を目的として他の者を、その者の同意があった場合においても、勧誘、誘引すること」や売春宿の経営そのものを禁じた、1949年に国際連合総会で採択された『人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約』に1958年に加入しているため、この国際条約の考え方に沿って、過去の日本軍の慰安婦制度を評価した場合、慰安婦制度そのものが違法なもの、女性の人権に反するものと見なされうるものですが、そもそも、アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツを含む世界の97カ国は、この条約に批准していません。

つまり、「管理売春」(売春宿の経営)それ自体が「性奴隷」であるか否かという問題は、国によって、文化によって、時代によって見方が異なるものであり、世界的に統一された見方が確立されているわけではありません。

田淵氏の言うように、「慰安所の運営そのものがローマ規程によって性奴隷とみなされている」という主張は完全な誤りということになります。

かといって、日本軍の慰安婦制度の中に、ローマ規程の定義によって「性奴隷」と呼ばざるをえない個別の事例が存在したこともまた事実です。「性奴隷」と呼ばざるをえない反例が一つでも存在するならば、「慰安婦は性奴隷ではない」という全称命題は成り立ちません。「慰安婦は性奴隷である」と述べることも、「慰安婦は性奴隷ではない」と述べることも、事実に背くことになります。安易な全称命題を掲げるべきではありません。

また、世界で使われる「性奴隷」という概念に、売春業を強要される人身売買の被害者が含まれているならば、論理的問題として、「慰安婦は売春婦だ」ということを示したところで「慰安婦は性奴隷ではない」ということを示すことにはなりません。「売春婦」と「性奴隷」は背反な概念ではないからです。「慰安婦は、売春婦か、性奴隷か」という従来採用されている問題の設定の仕方そのものが適切ではないことになります。

参考記事:
WJFプロジェクト「『売春婦か、性奴隷か』と問うなかれ(1)」(2014年7月27日)
WJFプロジェクト「『売春婦か、性奴隷か』と問うなかれ(2)」(2014年7月28日)
WJFプロジェクト「『売春婦か、性奴隷か』と問うなかれ(3)」(2014年7月30日)

では、慰安婦問題はどのように説明するべきか。

「慰安婦の中には、自分の意思に基づいて志願した女性と、自分の意志に反して強制された女性の二種類が混在していた」

という単純な事実から出発し、

1. 一般に強制された女性たちの中に、自分の意志によって志願した女性が偶発的に含まれていたのか。

2. 一般に自分の意志によって志願した女性たちの中に、強制された女性が偶発的に含まれていたのか。

どちらだったのか。

以上の論点をわかりやすく説明し、日本に特化されがちな「性奴隷」の問題を、普遍的な問題として世界に問い直していくことが、慰安婦問題の真の争点であるとWJFプロジェクトは考えています。

参考記事:
WJFプロジェクト「慰安婦問題の真の争点」(2014年2月26日)

以上の観点にもとづいてまとめた「慰安婦神話の脱神話化」という動画のシリーズを、どうぞあらためてご覧下さい。
『慰安婦神話の脱神話化』序章(改訂版)


『慰安婦神話の脱神話化』第1部:実際に何が起きたのか(改訂版)


『慰安婦神話の脱神話化』第2部:実際に何が起きなかったのか


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