日本語と日本社会(28)

「政治」と「非政治」(2)
「政治」は「非政治」を母体として、「非政治」の中から析出されてきたものであるにも関わらず、「非政治」を自らの外部にあるものとして対象化し支配しようとする。

「政治」と「非政治」のこのアンビバレントな関係は、人類が、自然を母体として生まれ、自然に包摂され、自然の一部として存在しているのにも関わらず、自然を自分の外部に存在する異物であるかのように対象化し、支配しようとする、人類と自然の相反する関係の一つの縮図でもある。

A. 「政治」は「非政治」を自らの外部にある客体として支配しようとする。
B. 「非政治」は「政治」を自らのの内部にあるものとして包摂しようとする。

人類の歴史とは、この二つの力、主語的な力と,述語的な力の相克の物語であるが、どちらの力が優勢であるかは、時代や国によって異なっている。

たとえば、日本においては伝統的に、「非政治」を客体として支配しようとする「政治」の力を、「政治」を包摂しようとする「非政治」の力が圧倒してきた。

このことは、歴史を通じて、日本という国家が、太政官政府や幕府などの「政治」権力と、「非政治」を司る天皇の権威を並置する、二重の(多重の)権威構造を採用してきたことからも伺える。

日本においても、「政治」はその宿命として、「非政治」を客体として支配しようとする志向をもつのだが、「政治」の背後に立つ天皇の「非政治」の権威が、「政治」が「非政治」から自らを分離して、独立した主体となって一人歩きしていくのを抑制してきた。

日本における万世一系の天皇の存在は、「政治」を内部に包摂しようとする「非政治」の力の象徴であると同時に、「現在」を内部に包摂しようとする「過去」の力の象徴でもある。

この日本の権威構造は「二重」であるに留まらず、「多重」の包摂関係の系列をもつ。

「政治」権力の背後に立ち、「政治」を包摂する天皇の背後には、皇孫を天降らせた天照大神が立ち、天皇の権威を包摂している。天照大神の背後には、さらに天照大神を生み出した神世七代の天つ神々が立ち、天照大神の権威を包摂している。神世七代の天つ神々の背後には、さらに天地開闢にたずさわった別天津神が立ってこれを包摂するというように、日本神話は、多重の権威の包摂関係を表現している。

新しい「政治」権力が何度も立ち上がり、めまぐるしく「政治」権力が入れ替っても、「政治」権力を、連綿として続く歴史の内部に包摂しようとする強い磁場が、日本列島の上で働いてきたのである。

この述語的な包摂作用の圧倒的な強さのゆえに、心理学者の河合隼雄が『中空構造日本の深層』で指摘したように、日本の「政治」権力はつねに空洞化されてきた。

外国と異なり、日本には権力の中心がない。

中心があっても、その中身はいつもからっぽであり、そこには誰もいない。

誰かが中心に立とうとすれば、周辺へとはじき飛ばされる。

日本においては、「政治」が抱える主語的な力よりも、「非政治」が抱える述語的な力が優勢なため、中心へと収斂させようとする求心力よりも、周辺へと拡散させる遠心力が、強く働いているためである。

だから日本には独裁者は生まれない。

平安末期の上皇や貴族たちの熊野詣の流行に見るように、権力者たちは中心を目指すどころか、中心から逃れて辺縁に向かって熱心に移動しようとする。

鎌倉幕府のように将軍の政治権力が打ち立てるいなや源氏は執権北条氏に抹殺され、中心が空洞化される。

政治の中心に立ちつつあった織田信長は本能寺で殺され、豊臣家は徳川家によって滅ぼされ中心から追われる。

徳川家康のように権力を樹立するやいなや、早々に駿府に隠居し、政治の中心から逃れていこうとする。

徳川の治世が長く続いたのも、各藩に地方の主権を委ね、天領の町人には自治を任せ、幕府が自らを巧みに空洞化していく構造をもっていたからである。

(つづく)
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No title

>だからこそ、安倍の支持率が下がっている
最近やっと下がり始めただけでそれまで高支持率でしたよ

>支持率が下がったらお腹を壊して総理を辞任してしまうような政治家を独裁者とは言わない。
それでも4年の間にやり放題だったんですから十分独裁ですよ
それに今回はまだ辞めていませんよ

日本人さん

>安倍という独裁者が生まれましたが?

日本の社会的風土は独裁者の存在を認めない。

だからこそ、安倍の支持率が下がっている。

支持率が下がったらお腹を壊して総理を辞任してしまうような政治家を独裁者とは言わない。

安倍は、独裁者のなりそこないに過ぎない。

No title

>日本には独裁者は生まれない
安倍という独裁者が生まれましたが?
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