なぜ、「○○よ」と呼びかけるのか(19)

「言霊」と「言挙げ」(8)
特殊なるものを主語として、これについて一般なるものを述語とするとは、如何なることを意味するか。

(中略)

一般的なるものが基となって特殊なるものを包む、特殊なるものが一般的なものに於いてあると考えることもできれば、特殊なるものが基となって一般的なものをもつとも考えることもできる。しかし概念自身の体系としてむしろ前者を取らねばならぬ。

(中略)

直接には一般と特殊は無限に重なり合っている、斯く重なり合う場所が意識である。

(出典: 西田幾多郎『場所』大正15年6月)


言語学者三上章が明らかにしたように、日本語とは「述語優勢」的な言語であり、「述語優勢」とは、西田幾多郎の言葉を借りれば、

「特殊なるものが基となって一般をもつ」というよりむしろ、「一般的なものが基となって特殊なるものを包む、特殊なるものが一般的なものに於いてある」と捉えるものの見方である。

この理解に基づいて、万葉集に現れる「言霊」という概念や、「言霊」という概念が現れる山上憶良の長歌を解釈してみれば、確かに、万葉集の歌は、「一般的なものが基となって特殊なるものを包む、特殊なるものが一般的なものに於いてある」と捉える、「一般的なもの」を基点にして「特殊なるもの」を俯瞰する、「述語優勢」的な見方に貫かれていることを前回までの記事で確認しました。

今回は、少し脇道にそれて、前回の記事の終わりに簡単にふれた「大祓詞」を、同じ観点からもう少し詳しく分析してみたいと思います。

「大祓詞」は、927年に完成した格式(律令の施行細則)「延喜式」の第八巻に記録されている祝詞であり、その起源は、 奈良時代やそれ以前にまで遡ることができると言われています。「中臣祓」や「六月晦大祓」とも呼ばれ、全国の神社で、毎年六月末日に行われる「夏越しの大祓」(なごしのおおはらえ)や、十二月末日に行われる「年越しの大祓」などの神事で、参集者に向かって罪の解除を宣言するために読み上げられる、神道で最も重要な祝詞の一つです。

大祓詞

高天原に神留まり坐す 皇親神漏岐神漏美の命以て 八百万神等を神集へに集へ給ひ 神議りに議り給ひて 我皇御孫命は 豊葦原瑞穂国を 安国と平けく知食せと 事依さし奉りき 此く依さし奉りし国内に 荒振神等をば 神問はしに問はし給ひ 神掃へに掃へ給ひて 言問ひし磐根木根 立草の片葉をも事止めて 天の磐座放ち 天の八重雲を 伊頭の千別に千別て 天降し依さし奉りき 此く依さし奉りし四方の国中と 大倭日高見の国を安国と定め奉りて 下津磐根に宮柱太敷き立て 高天原に千木高知りて 皇御孫命の瑞の御殿仕へ奉りて 天の御蔭日の御蔭と隠り坐して 安国と平けく知食さむ 国内に成り出む天の益人等が 過ち犯しけむ種種の罪事は 天津罪 国津罪 許許太久の罪出む 此く出ば天津宮事以ちて 天津金木を本打ち切り末打ち断ちて 千座の置座に置足はして 天津菅麻を本刈り断ち末刈り切りて 八針に取裂きて 天津祝詞の太祝詞事を宣れ

此く宣らば 天津神は天の磐戸を押披きて 天の八重雲を伊頭の千別に千別て聞食さむ 国津神は高山の末低山の末に登り坐て 高山の伊褒理低山の伊褒理を掻き別けて聞食さむ 此く聞食してば罪と言ふ罪は有らじと 科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の吹き掃ふ事の如く 大津辺に居る大船を舳解き放ち艪解き放ちて大海原に押し放つ事の如く 彼方の繁木が本を焼鎌の利鎌以て打ち掃ふ事の如く 遺る罪は在らじと祓へ給ひ清め給ふ事を 高山の末低山の末より佐久那太理に落ち多岐つ 早川の瀬に坐す瀬織津比売と言ふ神 大海原に持出でなむ 此く持ち出で往なば 荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百曾に坐す速開都比売と言ふ神 持ち加加呑みてむ 此く加加呑みてば 息吹戸に坐す息吹戸主と言ふ神 根国底国に息吹放ちてむ 此く息吹放ちてば 根国底国に坐す速佐須良比売と言ふ神 持ち佐須良比失ひてむ 此く佐須良比失ひてば 罪と言ふ罪は在らじと 祓へ給ひ清め給ふ事を 天津神国津神八百万の神等共に聞食せと白す

参考記事:
大祓詞の口語訳


大祓詞には、いくつもの「多」が、入れ替わり立ち替わり、次から次へとめまぐるしく登場します。

1. 高天原の八百万神等(天津神)の「多」

2. 「此く依さし奉りし国内に荒振神等」(国津神)の「多」

3. 「言問ひし磐根木根立草の片葉」(自然界にひしめく「コト(事)」=「コト(言)」)の「多」

4. 「安国と平けく知食さむ国内に成り出む天の益人等」(葦原中国にひしめく人々)の「多」

5. 「天の益人等が 過ち犯しけむ種種の罪事は 天津罪 国津罪 許許太久の罪出む」(葦原中国の住人が犯す罪)の「多」

6. 罪を吞み込んで浄化してしまう自然の連繋作用の「多」

7. 祝詞に耳を傾ける天津神、国津神の「多」

いくつもの「多」がめまぐるしく登場して、、一つの多が、それ以外の「多」によって幾重にも包摂される重層的な関係を表しています。

1. 天津神の「多」は、神々を会議へと召喚した、「神漏岐神漏美の命」(タカミムスビ・カミムスビ)の権威によって包摂されています。

2. 国津神の「多」や、3. 自然の「多」や、4. 国民の「多」は、葦原中国を平定した「皇御孫命」(ニニギ)の支配と権威に包摂されています。「皇御孫命」(ニニギ)は、「皇御孫命」(ニニギ)を葦原中国に派遣した、「神漏岐神漏美の命」(タカミムスビ・カミムスビ)や天津神によって包摂されていますから、2. 国津神の「多」、3.自然の「多」 4.国民の「多」は、「皇御孫命」(ニニギ)を介して、高天原に包摂されています。

4. 国民の「多」から、5. 罪の「多」が生じます。

5. 罪の「多」は、6. 自然の「多」や、7. 天津神、国津神の「多」や、によって包摂され、浄化されます。

大祓詞前段(罪の発生)
高天原の「多」⊃葦原中国(国津神、自然、国民)の「多」⊃罪の「多」

大祓詞後段(罪の解除)
罪の「多」⊂自然の「多」⊂天津神・国津神の「多」

「大祓詞」においては、幾重にも重なる「多」によって構成される重層的な包摂関係が、一つの歴史的な全体(historical entity)としての国家(national entity)を表しており、この重層的な包摂関係の再確認が、罪の解除と見なされています。
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