なぜ、「○○よ」と呼びかけるのか(18)

「言霊」と「言挙げ」(7)
神代より 言ひ伝て来(け)らく
そらみつ 倭の国は
皇神(すめかみ)の 厳(いつく)しき国
言霊(ことたま)の 幸(さき)はふ国と
語り継ぎ 言ひ継がひけり
今の世の 人もことごと
目の前に 見たり知りたり
人さはに 満ちてはあれども
高光る 日の朝廷(みかど)
神ながら 愛での盛りに
天の下 奏(まを)したまひし
家の子と 選びたまひて
大命(おおみこと) 戴き持ちて
唐(もろこし)の 遠き境に
遣はされ 罷りいませ 海原の
辺(へ)にも沖にも
神づまり 領(うしは)きいます
諸々の 大御神たち
船の舳に 導きまをし
天地の 大御神たち
倭の 大国御魂(みたま)
久かたの 天のみ空ゆ
天翔(あまかけ)り 見渡したまひ 事終り 帰らむ日には
又更に 大御神たち
船の舳に 御手うち掛けて
墨縄を 延(は)へたるごとく
阿庭可遠志 値嘉(ちか)の崎より
大伴の 御津の浜びに
直(ただ)泊(は)てに 御船は泊てむ
障(つつ)みなく 幸くいまして
早帰りませ

(神代から言い伝え来ることには、空に充ちる大和の国は、統治の神の厳しき国で、言霊の幸ある国と語りつぎ言いついで来ました。今の代の人も皆、この事は眼前に見、知っています。大和の国には人も多く満ちているのに、高く輝く日の朝廷で、神としての天皇がもっとも愛され、天下の政治をとられた家柄の子として、あなたをお選びなさり、今あなたは天皇のお言葉を奉戴して唐という遠い国土へ派遣され出立していかれます。そこで大海の岸にも沖にも神として留まり支配される諸々の大御神たちは、船の先に立って先導し申し、天地の大御神たちは、大和の大国霊をはじめとして、遥か彼方の天空からとび翔り見渡しなさるでしょう。また、無事使命を果たして帰国するでしょう日には、さらに大御神は船の先に御手をかけ、墨繩を引き伸ばしたように、あちかをし値嘉の岬をとおって、大伴の御津の海岸に、まっ直に泊まるべく御船は帰港するでしょう。無事にしあわせにいらっしゃって、早くお帰りなさい。)

(出典: 『万葉集』第五 894 雑歌、山上憶良による遣唐使への餞別の歌)


「言霊の幸う国」という有名な文言が現れる、山上憶良による万葉集の上の長歌は、

神代より 言ひ伝て来(け)らく


と歌い出して歴史の始原に目を向けることにより、同僚が遣唐使として唐に派遣されるという現実において生じている個別の出来事(「コト」)を、

1. 時間的に包摂するもの(この場合は「神代」)の側から俯瞰すると共に、

そらみつ 倭の国は


と歌い継ぐことによって、遣唐使の派遣という「コト」が生じる場所である「倭の国」を、

2. 空間的に包摂するもの(この場合は「そら」)の側から俯瞰している

ことを、前回の記事で指摘しました。

西田幾多郎の言葉を借りれば、一つ一つの「コト」が「於いてある場所」(一般的なもの)の側から、「コト」を俯瞰しようとする点に、万葉集の歌の特徴があり、「言霊」の本質も、このような物事を俯瞰しようとする視点の中に隠されているはずです。

そのことを確認していきたいと思います。

今回、まず注目したいのは、冒頭箇所の「言ひ伝て来(け)らく」「語り継ぎ 言ひ継がひけり」という言葉です。

神代より 言ひ伝て来(け)らく
そらみつ 倭の国は
皇神(すめかみ)の 厳(いつく)しき国
言霊(ことたま)の 幸(さき)はふ国と
語り継ぎ 言ひ継がひけり

(神代から言い伝え来ることには、空に充ちる("空から見た"の方が正しい現代語訳)大和の国は、統治の神の厳しき国で、言霊の幸ある国と語りつぎ言いついで来ました。)


「倭の国は言霊の幸う国であることが、神代の時代から、言い伝えられ、語り継がれ、言い継がれてきた。」

というのですが、

「倭の国は言霊の幸う国である」

ことと、そのことが、

「言い伝えられ、語り継がれ、言い継がれてきた」

ことの間には、密接な関係があります。

「言い伝える」「語り継ぐ」「言い継ぐ」ことは、過去と現在を結び、一つにつなぐ行為です。神代からの伝承を言葉によって語り継ぐことによって、現在を生きる様々な個人や「コト」が過去によって包摂され、一つの全体を構成するものとして結ばれるわけですから、「言い伝える」「語り継ぐ」「言い継ぐ」ことは、「言霊」を執行する行為に他なりません。

また「倭の国は言霊の幸う国であることが、神代の時代から、言い伝えられ、語り継がれ、言い継がれてきた」と歌う、山上憶良のこの長歌自体が、神代からの伝承を語り継ぐことによって、この歌の中に「言霊が幸」って(=言霊の本質が充満して)います。

だからこそ、山上憶良のこの歌は「神代」「そらみつ」というように、時間的にも、空間的にも、広く一般的なもの、物事を包摂するものの側から出発して、個別の「コト」に向かおうとする、「述語優勢」的な強いベクトルを持っているわけです。

同じ特徴は、以前引用したことがある、山部赤人による万葉集の長歌にも見られます。

天地の 分れし時ゆ
神さびて 高く貴き
駿河なる 富士の高嶺を
天の原 振り放け見れば
渡る日の 影も隠らひ
照る月の 光も見えず
白雲も い行きはばかり
時じくぞ 雪は降りける
語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ
富士の高嶺は

私訳「天と地が二つの分離した古く根源的な時代にまで遡る、崇高な富士の山は、太陽の光も、月の光も、白雲も、包み隠してしまう(包摂してしまう)ように、いつも雪が降りしきる。その壮大な富士の山を、言葉に語り継ぎ、言い継いでいこう。」

(出典: 『万葉集』巻3, 317 雑歌, 山部赤人)


この長歌も、「富士の高嶺」という個別の「コト」を、「天地の分かれし時」「天の原 振り放け見れば」というように、時間的にも、空間的にも、包摂する広いもの、一般的なものの側から俯瞰しようとしており、なおかつ、そのことを「語り継ごう、言い継ないでいこう」と呼びかけています。

この歌の中にも「コト」(個別)が「タマ」(一般)に包まれるという「言霊」の本質が現れています。

山上憶良の歌に戻りますが、同じ事を次の部分でも確認することができます。

天地の 大御神たち
倭の 大国御魂(みたま)
久かたの 天のみ空ゆ
天翔(あまかけ)り 見渡したまひ 事終り 帰らむ日には

(天地の大御神たちは、大和の大国霊をはじめとして、遥か彼方の天空からとび翔り見渡しなさるでしょう。)


さきほど「俯瞰」という言葉を使いましたが、上の箇所では、東シナ海を往来する遣唐使の船という小さな一つの「コト」を、船を守る神々の視点に立って、「久かたの 天のみ空ゆ 天翔り 見渡したまひ」と歌って、まさに「俯瞰」(=見渡すこと)しようとしています。

私たちが日々直面する様々な個々の「コト」を、広いもの、大きなもの、古いもの、一般的なもの、包摂するものの側から「俯瞰」することこそが、神々の加護に預かることなのであり、だからこそ、万葉集の時代の日本人は、「言い伝えること」「語り継ぐこと」「言い継ぐこと」を「言霊」の執行として、過去と現在を一つにつないで全体を「俯瞰」する行為として、神々の加護に預かる行為として重視したのだと考えられます。

細かく分析しませんが、同じことは、「大祓詞」(奈良時代に成立したと言われる神道でもっとも大切な祝詞の一つ)でも確認することができます。

「天の益人等が 過犯をかしけむ種々(くさぐさ)の罪事は 天つ罪・国つ罪、幾許(ここだく)の罪出いでむ」


「大祓詞」では、「種々(くさぐさ)の罪事(つみ・「コト」)」「幾許(ここだく)の罪」(多種多様な無数の罪)が、生じるようになった起源を、「高天原」という歴史の始原に遡って説明する共に、罪が解除される方法として、風や川や海という自然の包摂作用を掲げます。

多種多様であること、数が多いこと、細かく分岐していること(=「種々」「幾許」)、と「罪」という概念には関係があり、多数に分岐した「コト」が、自然という大きなものによって「包摂」されることの中に、古代の日本人は、罪の解除の本質を見いだしているのです。

ここにも「コト=タマ」的な思考、個物が一般によって包摂されることを重視する、述語優勢的な思考が隠れています。
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