なぜ、「○○よ」と呼びかけるのか(7)

「関係の言語」と「題・述構造」(1)
これまで、

・日本語は話者と聞き手との社会的関係を文の中に織り込む
・日本語は話者と話題の対象(物語の登場人物など)との関係性を文の中に織り込む
・日本語は話者と聞き手とが関係を取り結ぶために発話される

などの日本語の特質を確認してきましたが、このような「関係の言語」としての日本語の特質と、日本語の文法構造にはどのような内的な関係があるのでしょうか。

言語学者三上章が明らかにした日本語の「題・述構造」や、述語の働きを深く思索した西田幾多郎の「場所の論理」にふれながら、なぜ日本人が国家の形成と維持のために「漢文」という外国語を必要としたのか、また、なぜ、日本語の本質に逆らうかのように、「和歌」から「俳句」が派生していくことになったのか考察を進めていきます。

長くなるので、結論を先取りすれば、

・日本語のような、「題・述構造」をとる「主題優勢言語」においては、モノは述語の中に包摂され、個物として析出されないまま、関係性の中に埋め込まれている。

・これに比して、西洋の言語のような、「主語優勢言語」においては、モノは関係性から独立した個物として存在するものとされ、それを前提に、独立した個物としてのモノ相互の関係が語られる。

・「和歌」が、「主題優勢言語」の特質を強く帯びた「述語」としての詩文であるのに比して、「俳句」は、述語の働きを極限までそぎおとし、モノを前面に押し出すことによって「主語優勢言語」の特質を帯びている。その発展の契機にあるのは、「物我一致」を唱えた芭蕉の禅体験である。(近代において正岡子規が俳句を「写生」として再定義することによって俳句の禅的な性格は弱められてしまったが。)

・中国語は「主題優勢言語」の一つに数えられるものの、英語との類似性をもつ「主語優勢言語」の特質も帯びている。漢文のもつ「主語優勢言語」としての特質は、「主題優勢言語」としての日本語の弱さを補強している。

・戦後フランスに渡り、フランスに客死した思想家森有正は、フランス生活の「経験」を通して、日本語が抱える問題を思索し、共同体の中に埋もれ、モノに直接しようとせず、「体験」の中に安逸をむさぼる日本人のあり方を批判した。しかし、彼の日本批判と「経験」をめぐる思想は、「西洋かぶれ」であったどころか、皮肉にも、彼の意図を超えて、禅に通底するものとなっていた。

・「関係の言語」である日本語では、純粋な意味での「命題」を立てることができない。「AはBである」というシンプルな命題の中に、関係に関する余計な情報が侵入してくるからである。議論の目的は「命題」の真偽を明らかにする知的な共同作業であるので、「命題」を立てられない言語で「議論」は成立しない。日本語で日本人同士が「議論」(のまねごとの域をでられないが)しようとすれば、「命題の真偽」を明らかにするという本来の目的ではなく、「相手とどのような関係を取り結ぶか」という議論の本質とは無関係な脇道へと逸脱してしまう(例: 進撃の庶民)。

・日本語という、本来議論が成立しない言語であえて議論しようとするならば、日常の日本語の用法とはまったく異なる話法を確立しなければならない。日常の日本語は必ず「関係性」を誘発させ、「関係性」の中に論者同士を頑強に絡め取ろうとするからである。日本語の「関係誘発力」を意図的に弱め、解除するような話法が必要である。

・関係性の中に絡め取ろうとする日本語の性向に逆らって「議論」を「議論」として成立させるためには、相手を「○○様」とか「○○さん」と呼ぶのはまったく不適切である。相手を「○○様」とか「○○さん」と呼んだとたんに、論者同士の間に強い「関係性」が誘発されてしまう。日本語の「関係誘発力」はそれほどまでに強固である。

・「○○よ」という呼びかけは、「関係性」を顧慮しない非日本的な姿勢の故に「生理的嫌悪感」を日本人の中に引き起こすが、それが日本社会においてふだん使われていない非日常的な呼びかけであるがゆえに、日本語が引き起こす「関係誘発力」から自由になり、論者同士の日常的社会的な関係性をリセットし、「議論」を「議論」として成立させるうえで有効である。

この論考を通して以上の点を明らかにしていきます。
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