神風と陰謀論者の迷走と水蒸気爆発(3)
トランプ政権とバブル崩壊。
長く時間が開きましたが、「神風と陰謀論者の迷走と水蒸気爆発(1)」「神風と陰謀論者の迷走と水蒸気爆発(2)」という記事のシリーズのしめくくりです。
トランプ政権の経済政策に関して、以前から奇妙に感じていた点がある。
トランプ大統領はことあるごとに、「アメリカ人の雇用拡大」を訴えてきた。
たとえば、今年の2月28日に行われた施政方針演説で、ドナルド・トランプが「雇用」について語っている部分を引用してみよう。
NAFTAのような自由貿易協定やグローバリズムは、アメリカ国内の生産拠点の海外移転と産業の空洞化を引き起こし、雇用を海外に流出させた。不法移民や外国人単純労働の増加も、アメリカ人労働者の賃金に下方圧力をもたらしてきた。
だから、保護主義を掲げ、グローバリズムに反対し、アメリカ国内への投資を企業に呼びかけ、アメリカ国内の生産拠点を復興させ、アメリカ人の雇用を増やし、アメリカ人労働者の賃金を低下させてきた外国人単純労働者を排除することは正しい政策であろう。
問題は、アメリカが、昨年の段階で、すでにほぼ完全雇用の段階に達していることである。
参考記事: ブルームバーグ「FRB議長:米国は完全雇用に近い、労働市場改善も若干のたるみ」(2016年4月8日)
Bloombergは、昨年の10月に、アメリカの失業率が急速に減少しているものの、賃金上昇が物価上昇に比して鈍いことも報じていた。(出典)
既に完全雇用の段階に達しているのにも関わらず、数百万の雇用拡大を訴えて大規模な国内投資を行い、かつ外国人労働者を厳格に規制していけば、アメリカは深刻な人手不足と賃金インフレに陥っていくだろう。
労働者の賃金は上昇するが、賃金インフレの発生を確認すれば、FRBは利上げを急がなければならなくなる。
11月8日のトランプの大統領選の勝利以降、期待インフレ率が高まり、株価が上昇し、ダウ平均株価は、2017年3月1日に21169.1という歴史的高値をつけたが、仮にトランプ政権の経済政策が功を奏して、実際に賃金インフレが発生し、FRBがそれを抑止するように政策金利引き上げを急がざるを得ない状況が生まれた場合、そこで起きることは、水蒸気爆発のようなバブルの崩壊である。
マグマのように加熱する物体が水に触れると、気化した水が一気に膨張して大規模な爆発を引き起こすように、政策金利引き上げは、加熱する経済が爆発的な仕方で崩壊するきっかけになりうる。
実際に、アメリカにおける過去のバブル崩壊は必ずFRBによる政策金利引き上げの後に起きている。
1987年のブラックマンデー(レーガン政権時代)も、2001年のITバブル崩壊(ブッシュ政権)も、2007年のリーマンショック(ブッシュ政権)もそうである。
アメリカの過去のバブル崩壊は、どういうわけか共和党政権時代に発生し、FRBの政策金利引き上げと併せて、イラン・イラク戦争や同時多発テロのような軍事的な危機が引き金となることが多い。
トランプ政権の経済政策や外交政策を見ていると、故意に株式市場でバブル崩壊を引き起こそうとして行動しているように見えることがある。
トランプ政権によるシリアへの突然のミサイル攻撃から始まった、今回の北朝鮮情勢の緊迫化もその一例である。
トランプ政権の経済政策が順調に実行に移されれば、それは賃金インフレを引き起こし、FRBは従来以上に政策金利引き上げを急がなければならなかっただろう。だが、トランプ政権は、その経済政策の実行に当たり議会との調整で難航している。経済政策によっては、バブル崩壊は起きない。
ならば、経済の過熱化とは別の手段、つまり軍事行動によってトランプ政権は、バブル崩壊を引き起こそうとしているようにも見える。
ゴールドマンサックスのようなウォール街出身者を多く登用するトランプ政権が、軍事行動が金融市場に与える影響を知らないはずがないからである。
意図的にそうしているのか、そうでないかはともかく、トランプ政権の経済政策も外交政策も、バブル崩壊につながりうるものばかりである。
意図的にしているのならば、何のために、株式市場におけるバブル崩壊を急ごうとするのか。
その穿鑿は控えておきたいが、ドナルド・トランプが「不動産王」であることに、一つのヒントがあるのかもしれない。
トランプ政権の経済政策に関して、以前から奇妙に感じていた点がある。
トランプ大統領はことあるごとに、「アメリカ人の雇用拡大」を訴えてきた。
たとえば、今年の2月28日に行われた施政方針演説で、ドナルド・トランプが「雇用」について語っている部分を引用してみよう。
(前略)
私は、将来の道筋を定めるにあたって、過去数十年間の過ちを再び犯すことはさせません。私たちはあまりにも長きにわたり、雇用や富が外国に流れ、国内の中間層が縮小する様を目の当たりにしてきました。地球規模の計画を次から次へと立案し、投資してきましたが、シカゴやボルティモア、デトロイトなどで無計画に広がった市街で暮らす子どもたちの行く末には目をつぶってきました。
(中略)
私の当選後、フォード、フィアット・クライスラー、ゼネラル・モーターズ、スプリント、ソフトバンク、ロッキード、インテル、ウォルマートなどが、米国に数十億ドルの投資をし数万人の新たな米国人の雇用を創出すると発表しました。
(中略)
私たちは、雇用をつぶすような規制を大きく減らす歴史的な努力に着手しました。すべての政府機関内に規制緩和に取り組むタスクフォースを設け、新たな規制一つにつき、二つの古い規制を撤廃しなければならない、という新たなルールを課したのです。そして、偉大な炭鉱労働者たちの未来と暮らしを脅かしてきた規制をやめさせるつもりです。
私たちはキーストーンとダコタ・アクセスのパイプライン建設に道を開きました。それは何万もの雇用を創出します。そして私は新たなパイプラインは米国製の鉄によって造られるという新たな大統領令を出しました。
(中略)
北米自由貿易協定(NAFTA)が承認されてから、製造業の雇用の4分の1以上を失いました。そして中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加わってから6万の工場を失ったのです。昨年の世界に対する私たちの貿易赤字は8千億ドルに達しました。
(中略)
私は何百万もの雇用を取り戻します。労働者を守るということは、移民制度を改革することでもあります。現在の時代遅れの制度が、私たちのもっとも貧しい労働者の賃金を押し下げ、納税者の負担を重くしています。
(中略)
現実的で前向きな移民制度改革は可能だと私は信じています。ただしそのためには、米国人の雇用と賃金を改善すること、安全保障を強くすること、そして法の尊重を取り戻す、といった目標に焦点を絞ることが必要です。
(中略)
国家再建を始めるために、私は議会に、米国のインフラに官民の資金で1兆ドルの投資を生み、数百万の新規雇用を創出する法案を承認するようお願いします。
こうした取り組みは二つの核となる原則に沿います。米国製品を買うこと、米国人を雇用することです。
(中略)
数百万の人々が社会保障に頼らず働けるようになることも、大きすぎる期待ではありません。そして、母親たちが恐怖を感じずにすむ街、子供たちが心穏やかに学べる学校、米国人が豊かになり、成長できる雇用は、過大な望みではないのです。
(出典: 朝日新聞「トランプ氏『米国精神の再生を』【施政方針演説全文】」2017年3月2日)
NAFTAのような自由貿易協定やグローバリズムは、アメリカ国内の生産拠点の海外移転と産業の空洞化を引き起こし、雇用を海外に流出させた。不法移民や外国人単純労働の増加も、アメリカ人労働者の賃金に下方圧力をもたらしてきた。
だから、保護主義を掲げ、グローバリズムに反対し、アメリカ国内への投資を企業に呼びかけ、アメリカ国内の生産拠点を復興させ、アメリカ人の雇用を増やし、アメリカ人労働者の賃金を低下させてきた外国人単純労働者を排除することは正しい政策であろう。
問題は、アメリカが、昨年の段階で、すでにほぼ完全雇用の段階に達していることである。
参考記事: ブルームバーグ「FRB議長:米国は完全雇用に近い、労働市場改善も若干のたるみ」(2016年4月8日)
Bloombergは、昨年の10月に、アメリカの失業率が急速に減少しているものの、賃金上昇が物価上昇に比して鈍いことも報じていた。(出典)
既に完全雇用の段階に達しているのにも関わらず、数百万の雇用拡大を訴えて大規模な国内投資を行い、かつ外国人労働者を厳格に規制していけば、アメリカは深刻な人手不足と賃金インフレに陥っていくだろう。
労働者の賃金は上昇するが、賃金インフレの発生を確認すれば、FRBは利上げを急がなければならなくなる。
11月8日のトランプの大統領選の勝利以降、期待インフレ率が高まり、株価が上昇し、ダウ平均株価は、2017年3月1日に21169.1という歴史的高値をつけたが、仮にトランプ政権の経済政策が功を奏して、実際に賃金インフレが発生し、FRBがそれを抑止するように政策金利引き上げを急がざるを得ない状況が生まれた場合、そこで起きることは、水蒸気爆発のようなバブルの崩壊である。
マグマのように加熱する物体が水に触れると、気化した水が一気に膨張して大規模な爆発を引き起こすように、政策金利引き上げは、加熱する経済が爆発的な仕方で崩壊するきっかけになりうる。
実際に、アメリカにおける過去のバブル崩壊は必ずFRBによる政策金利引き上げの後に起きている。
1987年のブラックマンデー(レーガン政権時代)も、2001年のITバブル崩壊(ブッシュ政権)も、2007年のリーマンショック(ブッシュ政権)もそうである。
アメリカの過去のバブル崩壊は、どういうわけか共和党政権時代に発生し、FRBの政策金利引き上げと併せて、イラン・イラク戦争や同時多発テロのような軍事的な危機が引き金となることが多い。
トランプ政権の経済政策や外交政策を見ていると、故意に株式市場でバブル崩壊を引き起こそうとして行動しているように見えることがある。
トランプ政権によるシリアへの突然のミサイル攻撃から始まった、今回の北朝鮮情勢の緊迫化もその一例である。
トランプ政権の経済政策が順調に実行に移されれば、それは賃金インフレを引き起こし、FRBは従来以上に政策金利引き上げを急がなければならなかっただろう。だが、トランプ政権は、その経済政策の実行に当たり議会との調整で難航している。経済政策によっては、バブル崩壊は起きない。
ならば、経済の過熱化とは別の手段、つまり軍事行動によってトランプ政権は、バブル崩壊を引き起こそうとしているようにも見える。
ゴールドマンサックスのようなウォール街出身者を多く登用するトランプ政権が、軍事行動が金融市場に与える影響を知らないはずがないからである。
意図的にそうしているのか、そうでないかはともかく、トランプ政権の経済政策も外交政策も、バブル崩壊につながりうるものばかりである。
意図的にしているのならば、何のために、株式市場におけるバブル崩壊を急ごうとするのか。
その穿鑿は控えておきたいが、ドナルド・トランプが「不動産王」であることに、一つのヒントがあるのかもしれない。
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