ユダヤ陰謀論はなぜ「悪」か(3)

ユダヤ人は一枚岩ではない。
ユダヤ陰謀論を下の四つの観点から批判しています。

1. 世界観や歴史観における誤り
2. 事実認識における誤り
3. 戦略における誤り
4. 倫理面における誤り


前回の記事では、ユダヤ陰謀論の「世界観や歴史観における誤り」について論じました。前回の記事の論点を要約すると次の様になります。

・世界を動かしているのは歴史の大きなトレンドである。
・支配者であっても、世界を動かす歴史のトレンドを人為的・計画的に発生させることはできない。
・世界を動かす歴史のトレンドは、一部の支配者の計画によって生じるものではなく、数十億の一般大衆の潜在意識や、自然現象のような人為を超えた要因が複雑に絡み合って自然に発生する。
・支配者であっても、歴史のトレンドに逆らった行動をとることはできない。(歴史のトレンドに逆らえば、そもそも支配者の地位に登りつめることはできない。)
・支配者ができるのは、すでに先行して発生している歴史のトレンドに対して、後付けのポジションをもつことだけである。
・ならば、支配者は、歴史のトレンドの本当の発生源である大衆の奴隷である。
・一般大衆が、一方向的に支配者によって奴隷のように支配されているという、陰謀論者が好んで掲げる図式は虚構である。


今回から、ユダヤ陰謀論の「事実認識における誤り」について論じていきます。

まず、日経新聞の最近の記事からの引用です。(有料記事なので一部を引用します。)

トランプ大統領誕生で割れる米ユダヤ人社会

トランプ米大統領の誕生に、米国のユダヤ人社会が割れている。「親イスラエル」の外交姿勢を鮮明にし、妊娠中絶反対など保守的な思想を持つトランプ氏に、正統派ユダヤ教徒の多くは共鳴する。だがリベラルなユダヤ人の大半は難民の入国禁止令などに強く反対、排他的な政策に嫌悪感をあらわにする。米国社会の分断を深めている大統領の出現に、ユダヤ系米国人もまた一枚岩ではない。

(中略)

トランプ氏が就任後早々に署名したイスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令。一般的にイスラエル・パレスチナ問題でユダヤ人はイスラム教徒に敵対心を持っていると思いがちだが、ミネビッチさんのようなリベラルな人々はそうではない。入国禁止令について「宗教を攻撃することは間違っている」と訴え、特に難民に門戸を閉めることは、第2次世界大戦中にナチス・ドイツから逃れるために難民となったユダヤ人のつらい歴史を思い起こさせるという。「テロの最大の犠牲者である難民をテロリストとして締め出すことは大きな過ちであり、リベラルなユダヤ人の知人の多くも同意見だ」と語る。

ユダヤ系団体の調査によると、2015年現在で米国にユダヤ人は約680万人いるとされる。調査によって数にぶれはあるが、米人口の2%程度を占めているようだ。米国のユダヤ人社会は大きく3つのグループにわかれる。大半を占める世俗的でリベラルな改革派、伝統を守る保守派、そして厳格に戒律と伝統を順守する正統派だ。正統派は全体の1割程度を占めるとされる。改革派の人びとはリベラルな思想を持ち、民主党支持者が多い。生活スタイルも一般の米国人とそう変わらない。

正統派となると話は別だ。安息日や戒律を守り、宗派に準じた服装をする。たとえば正統派のなかでも保守的なハシディック派ユダヤ教徒の男性は常に黒ずくめのスーツを着用、屋外では黒い帽子をかぶる。安息日には働かない。男性は家族以外の女性に触れず、握手もしてはいけない。宗教上、特別な方法で調理された「コッシャー」という食べ物を食べる。リベラルな人びとは豚肉も口にするが、正統派は食べない。

(中略)

リベラルと正統派では政治観も異なる。米調査機関のピュー・リサーチセンターによると、ユダヤ人で2016年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン氏に投票した人は71%と、宗教別では最も多かった。トランプ氏に投票した人の割合は24%と最も低い。だが正統派では圧倒的にトランプ氏を支持した人が多く、今もなおトランプ氏の政策方針を支持する人は少なくない。正統派の人びとがより伝統的な価値観を大切にすることや、パレスチナなど中東問題に対する考え方も影響しているようだ。

(中略)

米政界ではクシュナー氏をはじめ、強力なロビー団体もありユダヤ系の影響力はなお大きいとされる。だが実際のユダヤ人社会ではトランプ大統領の出現でリベラルと保守の意見の溝は深まっている。米国では大統領選期間中のトランプ氏の差別的な発言が、反ユダヤの憎悪犯罪も引き起こしている側面もある。イスラエルの入植問題や中東外交を巡って、トランプ氏の外交方針が米国のユダヤ人社会に与える影響は小さくない。

(出典: 日経新聞2017年2月17日)


この記事から明らかなように、一言で「ユダヤ人」と言っても、様々な政治的立場の人々が存在します。

日本人やアメリカ人や中国人やイスラム教徒が政治的に一枚岩ではないのと同じように、ユダヤ人も政治的に一枚岩ではありません。

民主党を支持し、グローバリズムに傾斜するリベラルな立場のユダヤ人もいれば、共和党を支持し、グローバリズムや移民流入に反対する保守的な立場のユダヤ人も存在します。

実際には、ユダヤ人自身が一枚岩ではなく、様々な政治的立場に分岐して生活している人々であるにも関わらず、「ユダヤ人がグローバリズムやNWOを推進している」という、あまりに一般化された固定観念を事実であるかのように流布させることがどれだけ危険なことなのか、この単純な事実から考えても明らかではないでしょうか。

私がユダヤ陰謀論を憎む主な理由も、私自身が個人的な人間関係から「ユダヤ人にも様々な人たちがいる」ことを知っているからです。

私にはとても親しくしているユダヤ系の欧州人の友人がおり、その家族とも懇意にしています。お父さんはユダヤ人のコミュニティーでは、世界的に「知る人ぞ知る」方であり何度かメディアに登場したこともあります。

名の知れた方ですが、当然のことながら「世界の支配者」などではなく、もともとは小さな会社を経営されていましたが、お人好しのため会社を乗っ取られてしまい、今は従業員として自分が起こした会社によって雇われている身です。

お父さんは、家族の誰よりも早く起きて会社に出かけ、家族の誰よりも遅く帰ってきて、一人でテレビを見ながらご飯を黙々と食べて、家族の誰よりも早く就寝します。

いつもにこにこと微笑みを浮かべ静かで穏やかで「ジェントルマン」というものがあるとしたら、このような人のことであろうと私はいつも会う度に感銘を受けています。お父さんは、声を荒げてしかるようなことは一切なかったそうですが、やんちゃな私の友人はお父さんの前ではいつもかしこまっています。ユダヤ人ではない人たちが大多数を占める地域のコミュニティーの中でも,友人のお父さんはとても尊敬されています。

お母さんはキリスト教徒であり、娘(私の友人のお姉さん)も、キリスト教の男性の家に嫁いだため、キリスト教に改宗しましたが、それに対してお父さんが反対することもありませんでした。家族の中で厳格にユダヤ教の教えを守っているのはお父さんだけですが、家族はお父さんの信仰を尊重しており、ユダヤ教のお祭りの日には、お父さんと一緒に皆でユダヤ教の食事を取ります。逆に、クリスマスには、お父さんは、他の家族と一緒にクリスマスを祝いますが、七面鳥に手をつけることはありません。

私には、また911同時多発テロの後、思うところがあって、ニューヨークから日本に移住してきたユダヤ人の知人もいました。ニューヨークで音楽ビジネスをされていた人ですが、日本の安いアパートでとても質素な生活をしていました。「日本人は、ユダヤ人とキリスト教徒の違いが分からず、クリスマス・パーティーに私を招待するので困る」とぼやいていました。

大学時代には、私の下宿の近くに、あるアメリカの大学の日本研究センターの寮があり、友人がいたため私は毎日のようにその寮に出入りしていました。そこにユダヤ人の女子大学生がいました。彼女は、ユダヤ人というアイデンティティーに、どこかコンプレックスのようなものを感じているようで、他の学生と一緒にわいわい盛り上がったりはせず、いつ遊びに行っても部屋に籠もって黙々と勉強に打ち込んでいました。

一体、インターネットを見てユダヤ陰謀論にかぶれる日本人のどれだけが、生身のユダヤ人との人間関係をもっているかといえば、ほとんどの人たちは、ユダヤ人を見たこともなければ、ユダヤ人と話したこともない人たちではないでしょうか。

自分が直接見たことも、話したこともない人々について、インターネットの情報だけを鵜呑みにして偏った固定観念を持つことは、たとえば、生身の日本人を生まれて一度も見たことがない辺鄙な国の人々が、韓国人などが垂れ流す偏向した「反日プロパガンダ」を鵜呑にして日本人に対して的外れな憎悪を抱くことと同じぐらいバカげたことです。

「反日教育」に洗脳された中国人が、実際に日本を訪れて生身の日本人に会ってから、日本に対する印象が変わったということがよくあると言います。私自身、昨年北京に行ってみて、それまでインターネットで見聞きしていた中国人の印象とは全く異なる印象を現地の中国人から受けました。ネット上の誇張された伝聞だけを信じて、特定民族に対する固定観念をもつことには慎重であるべきであると思います。

また、陰謀論者の中には、「ユダヤ人には<良いユダヤ人>と<悪いユダヤ人>がいて、シオニストと呼ばれる<悪いユダヤ人>が、グローバリズムやNWOを推進している。批判されるべきなのは、シオニストと呼ばれる<悪いユダヤ人>たちだ」という論法でユダヤ人を批判する人々が存在し、沢村直樹氏もこの様な論法でユダヤ人批判を展開していました。しかし、これも全くのデマであり、シオニストはむしろ、グローバリズムに反対する立場のユダヤ人です。

たとえば、TPPやグローバリズムに反対し、ヒラリー・クリントンと民主党の大統領候補の座を争ったバーニー・サンダースは、シオニストのユダヤ人です。

(富裕層を優遇するブッシュ減税を継続しようとするオバマ政権に対して8時間半のフィルバスター<妨害演説>を行ったバーニー・サンダース)

サンダースは、「シオニストなのに」グローバリズムに反対しているのではなく、「シオニストだから」グローバリズムに反対しているのです。

「シオニスト」とはユダヤ人の国家主義者のことなので、国家主義者がグローバリズムに反対するのは当たり前のことなのですが、陰謀論者は、「シオニストがグローバリズムやNWOを推進している」などというデマを平気で垂れ流します。

国家というものを否定してかかる極端な左翼の人々が、ユダヤ人の国家主義であるシオニズムを批判するのならば、話は首尾一貫しているのですが、沢村直樹氏のような右派の立場に立つ国家主義者が、同じ国家主義者であるシオニストを批判して、矛盾すら感じずにいるのにはまったく困ったものです。

次の記事では、この点を詳しく見ていきます。
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

WJFプロジェクトについて
作品リスト
政治的立場
WJFプロジェクトは、日本の主権、伝統、国柄を守る保守的な観点から、安倍政権が推し進めるTPP参加、構造改革、規制緩和、憲法改正、安保法制、移民受入などのグローバル化政策に反対しています。
TPP交渉差止・違憲訴訟の会
YouTube
WJFプロジェクトの動画作品は以下のYouTubeのチャンネルでご覧になれます。

お知らせ
アクセス・カウンター


今日の一言
野生と文明の相克の物語(3)

日本人が、遅ればせながら、「帝国主義」という名の「文明」の所作を、アメリカ人やイギリス人から学び、まねるようになるはるか以前から、アメリカはその建国のはじまりよりすでに「帝国主義」をその本質として標榜する国家だったのである。
最新記事
コメント
<>+-
アーカイブ


RSSリンク
RSSリーダーに下のリンクを登録されると、ブログの記事やコメントの更新通知を受け取ることができます。