雪の戸隠にて(3): 調査報告1「戸隠そばはうまいか」

それなりにおいしい、しかし・・・。
日本人の伝統的な信仰の姿を調査する学術的なフィールドワークと厳しい山岳修行が、今回の旅の主な目的であったとは言え、「おいしいそばの探索」が旅の副次的な目的であったことを、私は率直認めないわけにはいきません。

皆さんご存知のように、長野県や戸隠はそばがおいしい土地として有名ですが、後で述べるある個人的な理由によって、「おいしいそばの探索」は、私が生涯をかけて探求する重要なテーマの一つであるからです。

また「神人共食」という言葉があるように、食は、日本人の信仰において、常に重要なファクターを占めてきました。神道のお祀りでは必ず食べ物が神様に捧げられます。農業や漁労といった、共同体による食料生産の営みぬきに、日本人の信仰を語ることはできないのです。

「暖冬の日本だから、十二月の初旬の長野では、まだ綺麗な紅葉がみられるんじゃないか」という甘い想定によって、ごく普通のウォーキングシューズのまま、ノーマルタイヤをはいた車のまま、図らずも白銀の世界に放り込まれてしまった私は、雪の上を何度も転び、雪だるまのように全身雪だらけになったり、腕を痛めて泣きそうになったり、熊鈴代わりにiPhoneで大音量でBabymetalの楽曲を鳴らしたり、素泊まりの宿だったので朝食代わりにかりんとうをかじったりしながら、命からがら戸隠神社の五社巡りをしたあと、直会(精進落とし)として、奥社からの帰り道で見つけた、とある戸隠そばの名店で戸隠そばをいただいたことは言うまでもありません。





しかし、私が戸隠そばに抱いた感想率直に申し上げるならば、

「それなりにおいしい。しかし、そばのもつポテンシャルを十全に引き出しているとは言いがたい。」

と皆さんに報告しないわけにはいきません。

と言いますのは、私は、そばに関して、ある衝撃的な出会いの経験をしているからです。

それは、いまから十年以上前の話です。

ある年の11月、紅葉狩りのために、山梨県をドライブしていたときのことです。

南アルプスの麓にある早川町という農村で「そばまつり」というイベントが開催されていたところに、私は偶然通りかかりました。

興味を引かれて車をとめたところ、小さなグランドのような場所に運動会に使うようなテントがいくつも建てられており、農家のおばちゃんのような人たちがいくつかのグループになって、発泡スチロールの容器に盛り付けたそばを一杯500円ぐらいで販売しています。

ためしに、そばを一杯いただいたところ、そのおいしさに私は愕然としました。

「ええっ、なんだこれは。そばって、こんなにおいしい食べ物だったのか。」

その時食べたそばの味が忘れられずに、それ以来、いくつかのそばの有名店にも足を運んでみたりしたのですが、残念ながら、早川町「そばまつり」で提供されていたそばを超えるそばに、私はこれまで出会ったことがありません。

今回いただいた戸隠そばも、それなりにおいしかったのですが、早川町の農家のおばちゃんたちが提供していたそばを凌駕しているとは言いがたいものでした。

なぜ早川町「そばまつり」のそばはおいしいのか。そのヒントを、早川町ホームページの記述の中に探ってみましょう。



美しい紅葉が山を染める秋。一年の締めくくりのイベントが、このそば祭りです。この祭りの主役はなんといっても「そば」。そばは昔から町内で栽培され食されてきた、とても親しみ深いふるさとの味です。祭りでは、町内各地区から親から子へ、そして孫へとその技術を受け継いできたそば打ち達が一同に集まり、地区ごとに特色のあるそばが提供されます。さわやかな秋の一日に、そばの食べ歩きを楽しまれてはいかがですか。

(出典: 早川町ホームページ)


早川町では、農家の人たちが自分たちが栽培し収穫したそばの実を、そのまま自分たちの手で製粉し、そばに打って、自分たちで食べている。しかも、そのそば作りの技法が、家庭料理の一貫として親子代々受け継がれている。

つまり、早川町では、そばの生産と消費の場が、ダイレクトに一体化している。

しかも、早川町という小さな町内の各地区が、他の地区とは異なる、特色あるそばを伝統的に受け継いでいる。

地産地消の究極の姿がここにあります。

これでは、商業化した市中のそば屋が、どんなに逆立ちをしても勝てるはずがありません。

市中のそば屋の場合、多くの顧客を持ち、高い回転率を誇るそばの名店であればあるほど、安定して良質のそばの実やそば粉や仕入れる流通システムを確立しなければりません。

どうしても中間業者を介さなければならならず、そばの実やそば粉は、中間業者の手を回されていく間に、どうしても鮮度や品質が劣化していきます。

仮に中間業者を介さず農家から直接そばの実を仕入れていたとしても、生産の場と消費の場は切り離されています。

そば打ちのどんなに高い技術をもってしても、素材のもつ鮮度や品質の減衰を埋め合わせることはできません。

これが、どんなそばの名店でも、早川町のそばに勝てない理由であると、私は推測しています。

TPPによって関税を撤廃し、わざわざ自国の農業を破壊して、はるばる外国から安い食料を手に入れる?

国内ですら中間業者が間に入っただけで、繊細なそばの味は劣化するというのに、こんなことでは、豊かな食文化は失われてしまいます。

そばの商業化(店で客にそばを売るサービス)は、江戸時代から始まっていますが、それでも、そばの本来の姿は、農家が自分たちで育て自分たちで作って食べる、そういう食べ物であったはずです。

早川町の「そばまつり」は、そばの最も基本的な姿を現代に伝えるおまつりです。

そばに限らず、自分たちが生産した物を自分たちで分かち合って食するというのは、国家や社会の基本中の基本ですが、あらためて、TPPは、そのような国家や社会の基本的な営みを破壊してしまうものです。

早川町のそばまつりは、一年で一日、日中の短時間にしか開かれないイベントのため、私は、十数年前に二度ほど伺ったきり、再訪することができずにいます。

みなさんも機会があったら、ぜひ、毎年11月に開かれる山梨県早川町の「そばまつり」に足を運び、そばの本当のおいしさを堪能していただきたいと思います。

あくまで、私の個人的なそばの基準が厳しすぎるのであり、戸隠のそばもおいしいですから、戸隠そばもごひいきにお願いします。
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