郵政民営化がもたらしたもの(3)
郵政民営化の結果、国民は貧しくなり、日本は財政危機に陥った。
2001年「資金運用部資金法等の一部を改正する法律案」により、「郵便貯金・公的年金の財政投融資への預託義務」を廃止し、かつて、日本の財政と実体経済とを力強くバックアップしていた郵便貯金・簡保保険を民営化した結果どうなったか。
日本という国家が一つの共同体であった時代が終わりを告げただけではない。
国債の発行残高と政府債務が増え、政府は緊縮財政を取るようになり、財政の悪化を理由に増税され、国内の消費は冷え込み、長期的なデフレ不況に落ち込み、国民は貧しくなった。
郵政民営化以降、なぜ国債の発行額が増え、財政危機に陥っていったか。
下のグラフを御覧いただきたい。

(資料出典)

(資料出典)
郵政民営化への第一歩であった行財政改革・金融改革に取り組んでいた橋本龍太郎内閣(平成8〜10年)の直後から、国債の発行額が急増していることが確認できる。
国債の発行残高が、郵政民営化以降増加したのには、三つの要因がある。
一つは、「財投債」の発行である。
郵政民営化前は、郵便貯金・簡保保険・国民年金の巨額の資産の全額を財政投融資の原資として日本政府がそのまま運用することができた。しかし、郵政民営化以降は、国が発行する「財投債」という新しい国債と、各特殊法人が主体となって発行する「財投機関債」によって、民間から直接資金を借り受けなければならなくなった。「財投債」という新しい国債の発行がはじまったため、その分の国債の発行額が増加している。
(金融商品としては普通国債と財投債は一体のものであり、国会の議決に基づき、発行限度額もが制限されるが、財投債の償還財源は財政投融資の融資先である特殊法人の収益であるため、税金を償還財源とする普通国債とは異なり、政府債務には分類されないと政府は主張するが、経済学者の中には異論も存在する。出典1、出典2)
二つ目は、「借換債」である。
日本の国債には、たとえば、10年固定利付国債の場合、十年ごとに、六分の一に相当する金額を、国債整理基金から支払われる現金で、残りの六分の五を「借換債」の発行によって得られる収入で償還し、六十年後に全額を償還する仕組みがある。過去に発行した国債の満期を迎えた平成10年頃から「借換債」の発行額が増えている。
(ただし、借換債は、過去に発行した国債の借り換えであるため、新しい債務が増加しているわけではない。)
三つ目は、「新規財源債」であり、建設国債や特例国債(赤字国債)が、これに類する。
消費税増税を行った橋本行財政改革・金融改革の頃から、一般会計税収が減少し、それに伴って新規財源債の発行が増えているが、公共事業費や財政投融資の減少が景気の悪化に拍車をかけ、さらなる財政悪化を招いている。


バブル崩壊後、90年代の金融危機を日本が乗り切ることができたのは、郵便貯金や簡保保険に集まった巨額の資産という「公的資金」があったおかげであるが、昨年の郵便貯金の株式上場と完全民営化によって、日本は財政や金融の安定装置を失いつつある。
国民が貧しくなり、貯金をする余裕がなくなってしまったことに加えて、郵便貯金・簡保保険が公的な性質を失った結果、郵便貯金・簡保保険に集まる国民の資産は年々目減りしており、「財政投融資への預託義務」廃止後、郵貯・簡保の資産は国債に運用されることで日本の財政を支えてきたものの、これも時限的なものであり、昨年の株式上場によって、今後、国債以外の運用比率が拡大していくことが予想されるからである。
三橋貴明や藤井聡のような「インチキな仕立て屋」たちは、郵政民営化に歯止めをかけようとした民主党政権に「反日」のレッテルを貼り、小泉郵政改革の後継者であった安倍晋三を日本経済の救世主であるかのように担ぎ出した上で、政府の債務を増やし公共事業を増やすように執拗に呼びかけている。
しかし、「国土強靱化論」が模範とする田中角栄の「日本列島改造論」は、一般会計のみならず郵便貯金と公的年金の潤沢な資金に支えられた財政投融資を前提としていたのであり、「郵便貯金・公的年金の財政投融資への預託義務」が廃止され、郵政民営化が完遂され、郵便貯金や簡保保険が財政と金融のセーフガードとして機能する力を失い、さらにはグローバル化の結果、乗数効果がほとんど効かなくなっている現在の状態で金融緩和と積極財政ばかりを推し進めれば、破滅へと転がり落ちるだけである。
「経世済民」や「国土強靱化」を訴えるのであれば、郵政民営化の見直しと「郵便貯金・公的年金の財政投融資への預託義務」の復活を叫ばなければおかしいのである。
郵政民営化と同じく、国家を豊かにするどころか、正反対に国民を貧困化させ国を滅ぼすことになる、TPPや農協解体のような「構造改革」を行っても、日本が持ちこたえる余力は、今の日本にはもう残されていない。
郵政民営化を含めたかつての構造改革をすべて見直し、その失敗を認め、時計を逆回転するような原状回復を行わない限り、日本が救われる道はない。
日本という国家が一つの共同体であった時代が終わりを告げただけではない。
国債の発行残高と政府債務が増え、政府は緊縮財政を取るようになり、財政の悪化を理由に増税され、国内の消費は冷え込み、長期的なデフレ不況に落ち込み、国民は貧しくなった。
郵政民営化以降、なぜ国債の発行額が増え、財政危機に陥っていったか。
下のグラフを御覧いただきたい。

(資料出典)

(資料出典)
郵政民営化への第一歩であった行財政改革・金融改革に取り組んでいた橋本龍太郎内閣(平成8〜10年)の直後から、国債の発行額が急増していることが確認できる。
国債の発行残高が、郵政民営化以降増加したのには、三つの要因がある。
一つは、「財投債」の発行である。
郵政民営化前は、郵便貯金・簡保保険・国民年金の巨額の資産の全額を財政投融資の原資として日本政府がそのまま運用することができた。しかし、郵政民営化以降は、国が発行する「財投債」という新しい国債と、各特殊法人が主体となって発行する「財投機関債」によって、民間から直接資金を借り受けなければならなくなった。「財投債」という新しい国債の発行がはじまったため、その分の国債の発行額が増加している。
(金融商品としては普通国債と財投債は一体のものであり、国会の議決に基づき、発行限度額もが制限されるが、財投債の償還財源は財政投融資の融資先である特殊法人の収益であるため、税金を償還財源とする普通国債とは異なり、政府債務には分類されないと政府は主張するが、経済学者の中には異論も存在する。出典1、出典2)
二つ目は、「借換債」である。
日本の国債には、たとえば、10年固定利付国債の場合、十年ごとに、六分の一に相当する金額を、国債整理基金から支払われる現金で、残りの六分の五を「借換債」の発行によって得られる収入で償還し、六十年後に全額を償還する仕組みがある。過去に発行した国債の満期を迎えた平成10年頃から「借換債」の発行額が増えている。
(ただし、借換債は、過去に発行した国債の借り換えであるため、新しい債務が増加しているわけではない。)
三つ目は、「新規財源債」であり、建設国債や特例国債(赤字国債)が、これに類する。
消費税増税を行った橋本行財政改革・金融改革の頃から、一般会計税収が減少し、それに伴って新規財源債の発行が増えているが、公共事業費や財政投融資の減少が景気の悪化に拍車をかけ、さらなる財政悪化を招いている。


バブル崩壊後、90年代の金融危機を日本が乗り切ることができたのは、郵便貯金や簡保保険に集まった巨額の資産という「公的資金」があったおかげであるが、昨年の郵便貯金の株式上場と完全民営化によって、日本は財政や金融の安定装置を失いつつある。
国民が貧しくなり、貯金をする余裕がなくなってしまったことに加えて、郵便貯金・簡保保険が公的な性質を失った結果、郵便貯金・簡保保険に集まる国民の資産は年々目減りしており、「財政投融資への預託義務」廃止後、郵貯・簡保の資産は国債に運用されることで日本の財政を支えてきたものの、これも時限的なものであり、昨年の株式上場によって、今後、国債以外の運用比率が拡大していくことが予想されるからである。
三橋貴明や藤井聡のような「インチキな仕立て屋」たちは、郵政民営化に歯止めをかけようとした民主党政権に「反日」のレッテルを貼り、小泉郵政改革の後継者であった安倍晋三を日本経済の救世主であるかのように担ぎ出した上で、政府の債務を増やし公共事業を増やすように執拗に呼びかけている。
しかし、「国土強靱化論」が模範とする田中角栄の「日本列島改造論」は、一般会計のみならず郵便貯金と公的年金の潤沢な資金に支えられた財政投融資を前提としていたのであり、「郵便貯金・公的年金の財政投融資への預託義務」が廃止され、郵政民営化が完遂され、郵便貯金や簡保保険が財政と金融のセーフガードとして機能する力を失い、さらにはグローバル化の結果、乗数効果がほとんど効かなくなっている現在の状態で金融緩和と積極財政ばかりを推し進めれば、破滅へと転がり落ちるだけである。
「経世済民」や「国土強靱化」を訴えるのであれば、郵政民営化の見直しと「郵便貯金・公的年金の財政投融資への預託義務」の復活を叫ばなければおかしいのである。
郵政民営化と同じく、国家を豊かにするどころか、正反対に国民を貧困化させ国を滅ぼすことになる、TPPや農協解体のような「構造改革」を行っても、日本が持ちこたえる余力は、今の日本にはもう残されていない。
郵政民営化を含めたかつての構造改革をすべて見直し、その失敗を認め、時計を逆回転するような原状回復を行わない限り、日本が救われる道はない。
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