三橋貴明はなぜ民主党を全否定したか
民主党政権は、本当に「反日」政権だったか。
Q. 三橋貴明氏は、反ネオリベ(反新自由主義)の言論人として現在安倍政権の諸政策を痛烈に批判していますが、自民党員である三橋貴明氏が、安倍政権を批判するのはなぜなのですか。
A. 三橋貴明氏は下のような考えに基づいて、自民党員でありながら、現在安倍政権の政策を批判していると考えられます。
Q. なるほど、三橋貴明氏は、どのような政権であっても評価すべきところは評価する、批判すべきところは批判する、そのような「是々非々の姿勢」が、民主主義国家の国民が身につけるべき「当たり前」の所作であると述べられたのですね。至言であると思います。
ならば、お聞きします。「反日」、「左翼」、「中韓の傀儡」、「売国政権」などと揶揄されてきた民主党政権ですが、今から冷静に振り返れば、その中には、「郵政民営化の凍結」や、「派遣法の見直し」、「子ども手当」など、反ネオリベ的な観点から評価すべき政策も多くありました。
たとえば、郵政民営化について説明させていただくと、冷戦が終結した1990年代初頭から、アメリカの政府や財界によって、毎年、郵貯・簡保の廃止や郵政民営化を求める要求が日本政府に突きつけられるようになりました。
2000年当時、郵貯には260兆円、簡保には120兆円もの巨大な資産が積み上げられていました。2016年現在でも、日本郵政ゆうちょ銀行は、約170億円、世界のメガバンクの中で第10位を誇る巨額の資産を抱えています。
郵便貯金や簡保の巨大資産は、かつては財政投融資として日本政府に預託され、日本道路公団や住宅金融公庫の原資として使われていました。日本人がせっせと働き、長い時間をかけてこつこつと蓄えてきた潤沢な資産は、血液のように日本の国内を循環し、道路などの公共財として結実し、日本の実体経済を支え、乗数効果によって日本人の暮らしをすみずみまで潤していたわけです。
つまり、「国が借金をして国内に投資する」という、三橋貴明氏が主唱している経済政策は、郵政民営化以前の日本では、郵貯や簡保の資産の財政投融資への預託という形で、そのまま実行されていたのです。郵政民営化以前の日本では、三橋氏の「経世済民論」は、あまりに当たり前の話すぎて、わざわざ唱える必要すらなかったことでしょう。
ところが、アメリカの政府や財界は、日本の国内に閉じ込められていたこの巨大資産に目をつけ、グローバルな金融環境にこれを開放することを日本政府に執拗に求めました。このアメリカの要求に従うことで、「経世済民論」的な護送船団方式の行財政運営の伝統に終わりをもたらしたのが、自民党の橋本龍太郎と小泉純一郎です。
まず、橋本龍太郎は、彼が行った行財政改革の中で、郵貯や簡保の財政投融資への預託を廃止します。郵貯や簡保の預託金利は市場より割高に設定されていましたが、その差益は、日本政府が、郵貯や簡保から借りたお金を、さらに割高な貸出金利で特殊法人に貸し出すことで捻出されていました。そして、特殊法人が背負ったこの割高な金利負担は、当然のことながら、特殊法人に投入される税金によってまかなわれていました。
当時、マスコミは、特殊法人やそこに天下りした役人を激しくバッシングし、郵貯や簡保の財政投融資への預託が、特殊法人や役人が国民の税金にたかるための悪の温床であるかのように国民に印象づけました。全体として考えれば、この仕組みは悪の温床であるどころか、国民の資産が国内に循環していく血管を、国民の税金をつかってがっちりとガードする仕組みだったのですが、この血管は「構造改革」によって切断されていきます。
橋本構造改革の結果、郵貯や簡保が伝統的に行ってきた財政投融資への預託が法律によって禁止されてしまうと、郵貯や簡保は、財政投融資以外に新しい運用先を探さなくてはなりません。一般の金融機関と同じように、赤字を出さない効率のよい資金運用が求められるようになります。そのためには、郵政が自ら主体的な経営責任を担うように国から独立させる必要が生じました。
そこで、国民の圧倒的な支持を受けて、郵政民営化への道を開いたのが、かの小泉純一郎です。そして、昨年の2015年11月、安倍政権の下で、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の三社の株式は同時上場されたことにより最後の画竜点睛が打たれ、小泉純一郎が端緒を開いた郵政民営化は、遂に完成の段階を迎えました。
上場の結果、ゆうちょ銀行の外国証券への運用が拡大しているのに対して、日本国債の保有比率は減少を続けています。2016年1月に導入が決定された日本銀行のマイナス金利政策は、もともと国債の保有比率が高いゆうちょ銀行の経営に大きな打撃を与え、国債売却の流れにさらに拍車を掛けています。国営時代と異なり、株式会社となったゆうちょ銀行には、高い運用実績が求められますから、利回りの低い国債の保有比率を減らし運用先を多様化させていかなくてはなりません。かつては国内に限定して投資され日本の実体経済を支えていた巨大資産は、国内の投資先から引きはがされ、より投機性の高い運用先を求めて海外に流出するようになり、グローバルなマネーゲームの闘技場に放たれていきます。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-02-08/-90
http://jp.reuters.com/article/jp-idJPKCN0VL0J1
しかし、この日本人の巨大資産のグローバルな金融環境への開放という、自民党がもくろんだ「売国」に、なんとか歯止めをかけようとしていたのが民主党・国民新党・社民党の三党でした。
2007年7月の参院選で、安倍晋三率いる与党自民党を破り、参議院第一党となった民主党は、同年8月9日に国民新党・社民党と共同で、「郵政民営化凍結法案」を第167回国会に提出しましたが、これは当時の安倍政権の下で、審議されることもなく廃案となりました。
民・国・社の三党は、それにひるむことなく、その直後の第168回国会にも「郵政民営化凍結法案」を提出し、民主党が第一党であった参議院を2007年12月に通過させることに成功しますが、翌2008年12月に、麻生太郎が率いる与党自民党によって衆議院で否決されてしまいます。
しかし、2009年8月の衆院選で民主党が圧勝し政権交代が実現すると、国民新党の亀井静香が郵政・金融担当大臣となって、郵政民営化凍結のための本格的な作業に着手します。
そしてついに、2009年12月4日、第173回国会(臨時会)の参議院本会議において「郵政株売却凍結法案」が可決・成立し、自民党政権が目論んだ日本人の巨大資産の外資への開放は、凍結されることになりました。
これは、アメリカの要求をはねのけて国民の資産を守ろうとした点で、きわめて「保守的」「愛国的」な功績であったはずですが、この頃から、民・国・社連立政権に対して、なぜか、「反日」「左翼」「売国」というレッテルを貼るネガティブ・キャンペーンがインターネット上で大々的に展開されるようになりました。いわゆる「ネトウヨ」ブームの到来です。
これは、今から思えば、郵政民営化を実現させたい、自民党を中心とするネオリベ推進勢力による組織的なプロパガンダであったと考えられますが、反ネオリベの経済評論家、三橋貴明氏は、当然、「是々非々の姿勢」で、民主党政権によるこれらの反ネオリベ政策を公正に評価していたのですよね?
A. いいえ。三橋貴明氏は、上に引用した同じ記事の中で、次のように述べています。
Q. どういうことなのでしょうか。三橋氏は、「経世済民」を唱え、反ネオリベの経済評論家として活躍されてきた方です。
「郵政民営化の凍結」、「派遣法の見直し」、「子ども手当」など、数々の反ネオリベ政策を実現させ、「経世済民論」的な日本固有の伝統的行財政制度を破壊した自民党のネオリベ路線に待ったをかけた民主党を指して、「まともなことを何一つやろうとしなかった」と全否定する一方で、TPP交渉参加表明のまさにその翌日に、「経世済民論」を唱える反ネオリベの経済評論家が、安倍晋三のような稀代のネオリベ政治家を指して「民主党よりはるかにまとも」と賞賛したのは、一体全体どういうことなのですか?
三橋氏が、本当に反ネオリベの経済評論家なら、「是々非々の姿勢」で、民主党の悪い政策には批判を加えながらも、少なくとも反ネオリベ的な政策は評価し、民主党を応援しなくてはならなかったはずです。民主党による「郵政民営化の凍結」は、国民の資産を守る最後のチャンスだったはずではないですか。小泉・竹中構造改革を痛烈に批判してきた三橋貴明が、これを全否定するというのは、さっぱり理解に苦しむのですが?
A. 三橋貴明氏は、我々が当然抱くこの疑問に頑なに口を閉ざしていますので、推測以上のことを申し上げることはできません。しかし、確実に申し上げられることは、三橋貴明氏が、安倍晋三を筆頭とするネオリベ推進勢力の一員として行動することによって、民・国・社連立政権による「郵政民営化の凍結」の動きを白紙に戻すと共に、安倍政権が、郵政民営化の復活も含め、過去のどんな政権も比較にならないほど徹底したネオリベ政策を断行する道を開いたということです。
Q. まったく理解に苦しみます。民・国・社連立政権が行った「子ども手当」についてはどうなのでしょうか。これは少子化対策としても、格差の是正としても、景気対策としても、大変有効な政策だったと思うのですが。小泉構造改革によって傷ついた貧困世帯には、まさに恵みの雨だったはずです。「経世済民」を唱える三橋貴明氏は、当然、民主党による「子ども手当」を積極的に評価していたのですよね?
A. いいえ。三橋貴明氏は、民主党政権が実行した「子ども手当」について次のように論評しています。
Q. えっ?「子ども手当」が、共産主義国家的な発想?そんなことを言ったら、国によるあらゆる社会保障制度は、すべて「共産主義国家的な発想」じゃないですか。「子供とは、親が育てるもの」などと言って、国による支援や社会保障を否定したら、これは小さな政府を求めるネオリベの主張と何も変わらないではないですか。
「経世済民」を唱え、ネオリベを批判しながら、民主党が行った反ネオリベ政策を全否定し、自民党や安倍政権のようなネオリベ政権を「救国政権」として持ち上げた三橋貴明。この人物の正体は、一体なんなのですか?抑えきれない、激しい怒りがこみ上げてくるのですが・・・。
A. 本当になんなのでしょうね。いまでも、多くの人たちが、三橋貴明氏は、安倍晋三に騙されていただけであると考え、この人物を「反ネオリベの旗手」として讃え、大きな期待と信頼を寄せています。小泉構造改革から現在にいたる歴史を丁寧に振り返るならば、この人物の言論姿勢の異常さや、その役割や正体は、誰の目にも、くっきりとうかびあがるはずなのですが。
A. 三橋貴明氏は下のような考えに基づいて、自民党員でありながら、現在安倍政権の政策を批判していると考えられます。
当たり前ですが、わたくしは安倍政権を今でも支持していますが、「100%丸ごと支持する」という話ではありません。何度も書いていますが、自分と100%同じ価値観、同じ政策を持つ政治家や政権など有り得ません。デフレ対策や「戦後レジームからの脱却」のように、評価するべきところは、評価する。批判するべきところは、批判する。この種の「当たり前」の「是々非々の姿勢」を、日本国民は思い出す必要があると思います。
(出典: 三橋貴明ブログ「長い、厳しい戦いが始まった」2013年3月16日)
Q. なるほど、三橋貴明氏は、どのような政権であっても評価すべきところは評価する、批判すべきところは批判する、そのような「是々非々の姿勢」が、民主主義国家の国民が身につけるべき「当たり前」の所作であると述べられたのですね。至言であると思います。
ならば、お聞きします。「反日」、「左翼」、「中韓の傀儡」、「売国政権」などと揶揄されてきた民主党政権ですが、今から冷静に振り返れば、その中には、「郵政民営化の凍結」や、「派遣法の見直し」、「子ども手当」など、反ネオリベ的な観点から評価すべき政策も多くありました。
たとえば、郵政民営化について説明させていただくと、冷戦が終結した1990年代初頭から、アメリカの政府や財界によって、毎年、郵貯・簡保の廃止や郵政民営化を求める要求が日本政府に突きつけられるようになりました。
2000年当時、郵貯には260兆円、簡保には120兆円もの巨大な資産が積み上げられていました。2016年現在でも、日本郵政ゆうちょ銀行は、約170億円、世界のメガバンクの中で第10位を誇る巨額の資産を抱えています。
郵便貯金や簡保の巨大資産は、かつては財政投融資として日本政府に預託され、日本道路公団や住宅金融公庫の原資として使われていました。日本人がせっせと働き、長い時間をかけてこつこつと蓄えてきた潤沢な資産は、血液のように日本の国内を循環し、道路などの公共財として結実し、日本の実体経済を支え、乗数効果によって日本人の暮らしをすみずみまで潤していたわけです。
つまり、「国が借金をして国内に投資する」という、三橋貴明氏が主唱している経済政策は、郵政民営化以前の日本では、郵貯や簡保の資産の財政投融資への預託という形で、そのまま実行されていたのです。郵政民営化以前の日本では、三橋氏の「経世済民論」は、あまりに当たり前の話すぎて、わざわざ唱える必要すらなかったことでしょう。
ところが、アメリカの政府や財界は、日本の国内に閉じ込められていたこの巨大資産に目をつけ、グローバルな金融環境にこれを開放することを日本政府に執拗に求めました。このアメリカの要求に従うことで、「経世済民論」的な護送船団方式の行財政運営の伝統に終わりをもたらしたのが、自民党の橋本龍太郎と小泉純一郎です。
まず、橋本龍太郎は、彼が行った行財政改革の中で、郵貯や簡保の財政投融資への預託を廃止します。郵貯や簡保の預託金利は市場より割高に設定されていましたが、その差益は、日本政府が、郵貯や簡保から借りたお金を、さらに割高な貸出金利で特殊法人に貸し出すことで捻出されていました。そして、特殊法人が背負ったこの割高な金利負担は、当然のことながら、特殊法人に投入される税金によってまかなわれていました。
当時、マスコミは、特殊法人やそこに天下りした役人を激しくバッシングし、郵貯や簡保の財政投融資への預託が、特殊法人や役人が国民の税金にたかるための悪の温床であるかのように国民に印象づけました。全体として考えれば、この仕組みは悪の温床であるどころか、国民の資産が国内に循環していく血管を、国民の税金をつかってがっちりとガードする仕組みだったのですが、この血管は「構造改革」によって切断されていきます。
橋本構造改革の結果、郵貯や簡保が伝統的に行ってきた財政投融資への預託が法律によって禁止されてしまうと、郵貯や簡保は、財政投融資以外に新しい運用先を探さなくてはなりません。一般の金融機関と同じように、赤字を出さない効率のよい資金運用が求められるようになります。そのためには、郵政が自ら主体的な経営責任を担うように国から独立させる必要が生じました。
そこで、国民の圧倒的な支持を受けて、郵政民営化への道を開いたのが、かの小泉純一郎です。そして、昨年の2015年11月、安倍政権の下で、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の三社の株式は同時上場されたことにより最後の画竜点睛が打たれ、小泉純一郎が端緒を開いた郵政民営化は、遂に完成の段階を迎えました。
上場の結果、ゆうちょ銀行の外国証券への運用が拡大しているのに対して、日本国債の保有比率は減少を続けています。2016年1月に導入が決定された日本銀行のマイナス金利政策は、もともと国債の保有比率が高いゆうちょ銀行の経営に大きな打撃を与え、国債売却の流れにさらに拍車を掛けています。国営時代と異なり、株式会社となったゆうちょ銀行には、高い運用実績が求められますから、利回りの低い国債の保有比率を減らし運用先を多様化させていかなくてはなりません。かつては国内に限定して投資され日本の実体経済を支えていた巨大資産は、国内の投資先から引きはがされ、より投機性の高い運用先を求めて海外に流出するようになり、グローバルなマネーゲームの闘技場に放たれていきます。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-02-08/-90
http://jp.reuters.com/article/jp-idJPKCN0VL0J1
しかし、この日本人の巨大資産のグローバルな金融環境への開放という、自民党がもくろんだ「売国」に、なんとか歯止めをかけようとしていたのが民主党・国民新党・社民党の三党でした。
2007年7月の参院選で、安倍晋三率いる与党自民党を破り、参議院第一党となった民主党は、同年8月9日に国民新党・社民党と共同で、「郵政民営化凍結法案」を第167回国会に提出しましたが、これは当時の安倍政権の下で、審議されることもなく廃案となりました。
民・国・社の三党は、それにひるむことなく、その直後の第168回国会にも「郵政民営化凍結法案」を提出し、民主党が第一党であった参議院を2007年12月に通過させることに成功しますが、翌2008年12月に、麻生太郎が率いる与党自民党によって衆議院で否決されてしまいます。
しかし、2009年8月の衆院選で民主党が圧勝し政権交代が実現すると、国民新党の亀井静香が郵政・金融担当大臣となって、郵政民営化凍結のための本格的な作業に着手します。
そしてついに、2009年12月4日、第173回国会(臨時会)の参議院本会議において「郵政株売却凍結法案」が可決・成立し、自民党政権が目論んだ日本人の巨大資産の外資への開放は、凍結されることになりました。
これは、アメリカの要求をはねのけて国民の資産を守ろうとした点で、きわめて「保守的」「愛国的」な功績であったはずですが、この頃から、民・国・社連立政権に対して、なぜか、「反日」「左翼」「売国」というレッテルを貼るネガティブ・キャンペーンがインターネット上で大々的に展開されるようになりました。いわゆる「ネトウヨ」ブームの到来です。
これは、今から思えば、郵政民営化を実現させたい、自民党を中心とするネオリベ推進勢力による組織的なプロパガンダであったと考えられますが、反ネオリベの経済評論家、三橋貴明氏は、当然、「是々非々の姿勢」で、民主党政権によるこれらの反ネオリベ政策を公正に評価していたのですよね?
A. いいえ。三橋貴明氏は、上に引用した同じ記事の中で、次のように述べています。
民主党政権の頃は、まともなことを何一つやろうとしませんでしたので、ひたすら批判していればよかったわけです。当時とは比較にならないほどまともな政権が誕生したわけですが、それにしても100%同意する必要はないというか、そんなことはできるはずがないのです。
(出典: 三橋貴明ブログ「長い、厳しい戦いが始まった」2013年3月16日)
Q. どういうことなのでしょうか。三橋氏は、「経世済民」を唱え、反ネオリベの経済評論家として活躍されてきた方です。
「郵政民営化の凍結」、「派遣法の見直し」、「子ども手当」など、数々の反ネオリベ政策を実現させ、「経世済民論」的な日本固有の伝統的行財政制度を破壊した自民党のネオリベ路線に待ったをかけた民主党を指して、「まともなことを何一つやろうとしなかった」と全否定する一方で、TPP交渉参加表明のまさにその翌日に、「経世済民論」を唱える反ネオリベの経済評論家が、安倍晋三のような稀代のネオリベ政治家を指して「民主党よりはるかにまとも」と賞賛したのは、一体全体どういうことなのですか?
三橋氏が、本当に反ネオリベの経済評論家なら、「是々非々の姿勢」で、民主党の悪い政策には批判を加えながらも、少なくとも反ネオリベ的な政策は評価し、民主党を応援しなくてはならなかったはずです。民主党による「郵政民営化の凍結」は、国民の資産を守る最後のチャンスだったはずではないですか。小泉・竹中構造改革を痛烈に批判してきた三橋貴明が、これを全否定するというのは、さっぱり理解に苦しむのですが?
A. 三橋貴明氏は、我々が当然抱くこの疑問に頑なに口を閉ざしていますので、推測以上のことを申し上げることはできません。しかし、確実に申し上げられることは、三橋貴明氏が、安倍晋三を筆頭とするネオリベ推進勢力の一員として行動することによって、民・国・社連立政権による「郵政民営化の凍結」の動きを白紙に戻すと共に、安倍政権が、郵政民営化の復活も含め、過去のどんな政権も比較にならないほど徹底したネオリベ政策を断行する道を開いたということです。
Q. まったく理解に苦しみます。民・国・社連立政権が行った「子ども手当」についてはどうなのでしょうか。これは少子化対策としても、格差の是正としても、景気対策としても、大変有効な政策だったと思うのですが。小泉構造改革によって傷ついた貧困世帯には、まさに恵みの雨だったはずです。「経世済民」を唱える三橋貴明氏は、当然、民主党による「子ども手当」を積極的に評価していたのですよね?
A. いいえ。三橋貴明氏は、民主党政権が実行した「子ども手当」について次のように論評しています。
この「反民主党救国戦線は可能か?」の中で、わたくしが「子ども手当」について取り上げた部分があります。(結構、そのあと広がりました)何のことかといえば、子ども手当とは「景気対策」にも「少子化対策」にも「見えない」という点です。
すなわち、民主党の子ども手当には「子供は社会で育てるもの。あるいは国家で育てるもの」という発想が見え隠れしていて、率直に言って不気味極まりない、という話です。この「子供を国家で育てる」というのは、まさしくかつてのソ連のような共産主義国家的な発想そのものなのです。
実際、ソ連はレーニン時代に家族解体に乗り出しました。この「家族解体」という思想の元祖は、実はレーニンですらなく、共産主義思想の生みの親であるマルクスやエンゲルスにより生み出されたものですから、年季が入っています。
今回の民主党の子ども手当ですが、「扶養控除・配偶者控除の廃止(家族の税制メリット消滅)」「子供を育てる際の、国家関与強化」など、このソ連式家族解体の匂いがたちこめて、怖気が込み上げてきます。
おまけに民主党は夫婦別姓や戸籍制度廃止など、家族解体に向けた様々な施策をパラレルで進めていますので、冗談抜きに1930年代のソ連を目指しているとしか思えないわけです。
実際、一部の左翼系(ガチガチの売国左翼系)学者が、子ども手当について「子供を国家が育てるシステムにするための第一歩だ」などという発言をしているそうです(八木先生情報)。
国家が子供を育てるなど、とんでもない話です(ヒットラーユーゲントですか・・・)
子供とは、親が育てるものです。そして、わたくし達の子供たちが、将来、自分の子供を育てるのです。
(出典: 三橋貴明ブログ「子ども手当の『狙い』」2010年3月14日)
Q. えっ?「子ども手当」が、共産主義国家的な発想?そんなことを言ったら、国によるあらゆる社会保障制度は、すべて「共産主義国家的な発想」じゃないですか。「子供とは、親が育てるもの」などと言って、国による支援や社会保障を否定したら、これは小さな政府を求めるネオリベの主張と何も変わらないではないですか。
「経世済民」を唱え、ネオリベを批判しながら、民主党が行った反ネオリベ政策を全否定し、自民党や安倍政権のようなネオリベ政権を「救国政権」として持ち上げた三橋貴明。この人物の正体は、一体なんなのですか?抑えきれない、激しい怒りがこみ上げてくるのですが・・・。
A. 本当になんなのでしょうね。いまでも、多くの人たちが、三橋貴明氏は、安倍晋三に騙されていただけであると考え、この人物を「反ネオリベの旗手」として讃え、大きな期待と信頼を寄せています。小泉構造改革から現在にいたる歴史を丁寧に振り返るならば、この人物の言論姿勢の異常さや、その役割や正体は、誰の目にも、くっきりとうかびあがるはずなのですが。
要約
三橋貴明は、かねてより小泉構造改革を批判する反ネオリベの経済評論家でありながら、「郵政民営化の凍結」「派遣法の見直し」「子ども手当て」など、従来の自民党の構造改革路線を見直す、数々の反ネオリベ政策を実行した民主党政権を全否定し、人々を扇動してこれをつぶし、郵政民営化の完成を目論む自民党安倍晋三に支持を煽った。
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