日本を映す鏡、台湾(4)

「部族」国家に向けられた敵意。
ニクソン大統領の訪中準備のために、1971年10月に、アメリカのキッシンジャー大統領補佐官と中国の周恩来首相との間に行われた極秘会談の記録を紹介します。この会談記録は、会談から三十年が経過した2001年に機密解除された資料を、その翌年、産経新聞が報じた記事からの引用です。

この会談記録から

・アメリカと中国が、日本を野蛮な「部族(民族)」国家として、自分たちとは異質な国と見なしていたこと
・アメリカと中国が、日本の経済発展に対する懸念を共有していたこと
・特に中国は、日本の経済発展が軍事力の増大につながることを恐れていたこと
・それに対し、日米同盟は日本の自立と強大化を阻止し日本を封じ込めるためのものであると、アメリカが説明していたこと
・アメリカは、日本や台湾を独立させる意志を持たないこと


が伺えます。

その後、冷戦が終結しつつあった1989年に、CIA長官のウィリアム・ウェブスターが、大きな経済発展を遂げた日本こそが、アメリカの次なる仮想敵国であると公然と宣言し、90年代以降、アメリカは実際に日本の経済発展にブレーキを掛けるために、日本の経済的繁栄の主要因と見なされた日本社会の伝統的な「部族」性を弱めるための、様々な改革を強要する圧力を加えるようになりました。

それが、いわゆる「構造改革」であり、TPP、RCEP、FTAAPのような経済協定は、その延長線上に位置づけられます。

米中が結託して世界規模で拡大させようとしている全体秩序、すなわち「グローバル化」は、日本のような古い歴史をもつ国家を、根底から「脱民族国家化」させていくことに、ひとつのねらいがあります。

自民党や安倍政権は、そのための尖兵として働いています。

そのための「国家戦略特区」であり、そのための「一千万人移民計画」であり、そのための「TPP」であり、そのための「英語公用語化」です。

米中がときおり演じてみせるみかけ上の対立や「中国の脅威」は、日本の大衆層を、日米同盟や自民党政治という民族消滅装置の中に一層深く追い込むための演出に過ぎません。

参考記事:
「なぜ、こんなことになったのか」(4)(2015年12月13日)
中国は「領海侵犯」を犯したか(2016年6月17日)


≪危険な日本≫

キッシンジャー: 最も気になる問題から始められてはいかがだろう。

周恩来: 現在の日本の経済発展を止めることは困難になっており、必然的に海外の先進国や開発途上国にも影響が出てきている。開発途上国に対しては植民地化を進めている。日本には第二次大戦の教訓から平和と中立の道を歩んでほしい。現状の資本競争の政策を続けるなら、早晩問題が生じる。経済発展を望む者がいれば、その発展を許容せざるをえない者が出てくるからだ。経済発展が拡大すれば、自衛という名であろうと軍備拡張へとつながるだろう。第二次大戦後も日本はこの五十年間と同様に中国に挑戦的な向きがあるが、中国は報復ではなく平和と友好の政策をとっている。日本の政権に挑戦的な向きがでたのは大戦後、日本が恩恵を受けたからだ。他国に賠償する必要はなかったし、この二十五年間、国防支出の必要もなかった。現在は経済発展によって第四次防衛計画で国防支出も増えようとしている。中国は日本との敵対関係を望まず、日本政府の拡張政策が見直され平和政策が推進されれば、状況は変わるだろう。

キッシンジャー: 率直な日本観を示す。これは米政府全体の見方ではないが、ホワイトハウスの代表的な見解だ。中国と日本を比較した場合、中国は伝統的に世界的な視野を持ち、日本は部族的な視野しか持っていない。

周恩来: 日本はものの見方が偏狭で、全く奇妙だ。島国の国民だ。英国も島国だが。

キッシンジャー: 日本と英国は違う。日本は自国の社会があまりに異質なので、社会を適合させ、国の本質を守ろうとする。日本は突然の大変化も可能で、三カ月で天皇崇拝から民主主義へと移行した。日本人は自己中心で他国に対する感受性に欠ける。日本の経済発展の方式は自身のためで、そこに特性が具体的に示されているという首相の意見に全く同感だ。日本に対しては何の幻想も抱いていない。首相が示した「日本を中立化するのが望ましい」という見解について意見を述べるが、一億二千万人の人口がいる世界第三位の工業国にとって何が中立かを認識するのは難しい。歴史の中には、二種類の中立しかない。ベルギーのように他の国々に(中立を)保障された国と、中立を宣言し独自の強力な軍隊で防衛するスイスやスウェーデンのような国だ。日本が独力で国防を行えば、軍備拡張で周辺諸国にとって脅威となるだろう。現状の日米関係は実際には日本を束縛しており、もし米国が(日本を解き放す)皮肉な政策をとれば日中の緊張を引き起こす。日本との関係を緊密にせずに自立を促して米国が日中双方と関係を結ぶのはあまりに短絡的で、米中はいずれも犠牲となるだろう。日本が太平洋にある米国の従順な身内だと考えるような米国人はお人よしだ。日本は独自の目的を持ち、ワシントンではなく東京でそれを実行している。日本びいきの向きがある人たちは日本を利用しようとするが、それは危険だ。米国は対日基本政策として、核武装に反対し、自国防衛のための限定的な再武装を支持し、台湾や朝鮮半島への軍事的拡張に反対している。

周恩来: 日本の核武装を望まないというが、米国が日本に核の傘を与え、他国への脅威になっているのはどういうことか。日本は大きな力と同盟関係にあると感じるからこそ、経済発展や軍備増強を遂げているのだ。

キッシンジャー: 核の傘は日本に対する核攻撃に備えたもので、米国が(攻撃に出る)日本のために核兵器を使うことは自国のために使うこと以上にありえない。しかし、実際には日本人は迅速に核兵器を製造する能力を持っている。

周恩来: それは可能だろう。

≪日本再軍備と日米安保≫

周恩来: 日本の防衛力を制限することは可能と考えるか。

キッシンジャー: 確信していないことを断言したくない。日本が現在の米中関係に反発して、ナショナリズムが再度台頭するというような主張以上に防衛力を制御する方策の場があると信じている。日本のアジア支配を回避するために第二次大戦を米国が戦ったのに、二十五年後には日本を支援しているというような見方は適当でない。私は米国がこうした疑問を提起してこなかったと個人的に信じている。もし、日本に強力な再軍備拡張計画があるならば、伝統的な米中関係が再びものをいうだろう。日本を自国防衛に限定するよう最善を尽くさなくてはならず、日本の拡張阻止のため他国と共闘するだろう。

周恩来: 日本の経済力で軍備増強を可能にし、日本を勝者にしようとする大きな力がある。日本人を平和と中立に向かわせることはなぜよくないのか。

キッシンジャー: 当然、日本が平和政策を進めることを問題視はしていない。日本が中立を目指すことは、軍備増強の結果をもたらすと考えているのだ。戦術的に中立になるだろうが、日本は以前はそうだった。

周恩来: 日本は米国のコントロールなくしては野蛮な国家だ。拡大する経済発展を制御できないのか。

キッシンジャー: 軍事的側面以外では完全に制御はできない。核の傘に関しては日本との間にその拡張で条約を結ぶ必要はない。核時代には国が他国を防衛するのは条約のためではなく、自国の利益が問われるためなのだ。日本は軍事的には米国に何も貢献していない。もし極東地域で米国が積極的戦略を描くならば、日本を必要としないだろう。日本に基地は必要とせず、日本以外でも基地は持てる。

周恩来: 日本の軍国主義が復活するのは望ましくない。日本をここまで経済発展させたのは米国だ。

キッシンジャー: それは本質的には事実だ。しかし、日本の経済発展が現実にあるならば、米中は太平洋の両岸で何をなすべきかを決めなければならない。米中は愚鈍な楽観主義者でもないし、首相は現在の様相の中で、状況を見つめなければならない。

周恩来: 日本はすでに豊かな国に育った。今問題なのは、日本の多くの人々が日本の米軍基地撤退を要求していることだ。沖縄をはじめ日本の米軍基地の今後の役割についてはどう考えているか。

キッシンジャー: 日本人が駐留軍の撤退を望むならいつでも、米軍は撤退する。首相はその日が来ることを喜ぶべきでないと思う。米国が日本を経済大国にしたことを今日後悔しているように、中国もいつの日かそのことを後悔する日が来るからだ。

周恩来: それは二つの異なる問題だ。米軍撤退は友好関係の中だけで可能であり、敵意の中ではできない。

キッシンジャー: その通りだ。もし、日本が安保条約の破棄を申し出れば一年以内に駐留軍を撤退させる。

≪台湾問題≫

キッシンジャー: 米国は日本が台湾に軍事拡張したり軍事的影響を与えることを支援せず、反対する。また、日本の台湾独立運動支援の企てを阻害する影響力が米国にはある。米国は台湾問題の平和的解決と中国との関係正常化を支持する。首相がどうこの問題をとらえているかを理解しており(ニクソン)大統領も首相や毛沢東主席との会談で、こうした米国の認識すべてを再確認するだろう。中国は台湾問題を国内問題と位置付けていることは理解している。米国はそれに反対しようとは思わない。

周恩来: 台湾問題は第二次大戦後に浮上し、すでに解決済みの問題だ。戦後に満州同様、台湾も日本は降伏文書で放棄しており、確定したことだ。日本が台湾を占領したのはわずか五十年間だった。英国政府は、台湾が中国の一部であるという中国政府の立場を認識している。認識と承認は国際法上異なるが、それははっきりしている。(中略)米国のトルーマン大統領は、台湾は中国の人々に返還され、米国は台湾に領土的野心はないと表明した。しかし、朝鮮戦争が起きるや、大統領は第七艦隊と顧問団の派遣を決め、台湾と台湾海峡は米国の保護下にあると宣言した。大統領は核兵器に言及し、現にそこにあった。日本とのサンフランシスコ平和条約で、トルーマン大統領は(台湾をめぐる)宣言に沿うように奇妙な基本原則を利用した。それによれば、日本は本州、北海道、四国、九州以外の領土問題を再度出してきた。サハリン南部やクリール諸島、沖縄を含む琉球諸島のほか、台湾や南沙(スプラトリー)諸島などもその問題に含まれている。サンフランシスコ条約はこれらの領土がどの国々に属するのかを特定していない。誰がこうした構図を描き出したのか。

キッシンジャー: ダレス(米国務長官など歴任)だ。あなたの古い友人だ。

周恩来: その後、個別の条約が日本との間で結ばれたが、その時台湾は米国の保護下で蒋介石(総統)がただ一人の小さな代表者となっていた。蒋介石は(米国に)言われたようにだけ行動でき、日本が放棄したというだけで、どの国に台湾が返還されるのか特定されていない条約下で、台湾に君臨していた。蒋介石を売国奴と呼ぶ理由はたくさんある。

キッシンジャー: 蒋介石は一つの中国だけがあり、台湾は存在すると主張している。

周恩来: 米国が沖縄を含む琉球諸島を日本領土とすることで日本と合意したとき、蒋介石はなぜ中国に返還しなかったのかを問いただした。歴史上、沖縄を含む琉球諸島は明朝や清朝が支配してきた。台湾と澎湖諸島は日本との平和条約で支配権が示されておらず、破棄すべきだ。蒋介石はこの問題を提起せず、その後ダレスから保護が示されたため、もう条約について言及しなくなった。(中略)台湾独立運動が起きる日を確実に考えているからだ。そうした観点を同様に持っているのは第一に日本で、第二に米国だ。はっきりさせたいのだが、米国は台湾がすでに返還され中国の一部になったとみなしているのか。中国人民はどのように台湾問題を解決すべきだと考えているのか。

キッシンジャー: 明確に答えを出したいが、首相のようなはっきりした考えは示せない。中国は一つであり、台湾は中国の一部であるとの中国の一貫した政策には反対しない。

(出典: 産経新聞2002年8月6日 )




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