歴史を形作る目に見えない力について(16)
二つの普遍性のはざまで(2)
白鳳時代に現れた、日本の三重構造。

これを、前回の記事では、以下のようなヴァリエーションで表現しなおしてみました。



上の、いずれの三重構造においても、最上位の層と、最下位の層は、普遍性を帯びていたり、普遍性を志向したりする共通点をもっていると、前回の記事で述べました。
今回の記事では、最下位の層、「自然」「深層心理」「過去」に着目して、どうしてこの層が普遍性を帯びていたり、普遍性を志向したりすると言えるのか考えてみたいと思います。
まず「深層心理」を取り上げてみたいのですが、深層心理がなぜ普遍性をもつのかといえば、ユングという心理学者が提唱した「集合的無意識」という概念を一つの根拠として挙げることができます。
ユングは個人的な無意識の根底に、人類に普遍的な「集合的無意識(普遍的無意識)」の層が存在すると唱えました。
ユングよりはるかに古くから、大乗仏教も全く同じ考えを唱えており、大乗涅槃経には「一切衆生悉有仏性」(すべての人間は仏性を持つ)という普遍的な思想が掲げられていました。
しかし、大乗仏教を受け入れた日本人は、さらにその普遍性を押し広げました。
中世の日本で流行した「天台本覚思想」は、人間や動物のような「有情」(心をもつ)の存在だけではなく、草木や鉱物のような「非情」(心をもたない)の存在ですらも、同じ仏性をもつと唱えました。
日本人は、「一切衆生悉有仏性」では飽き足らず、「草木国土悉皆成仏」「山川草木悉皆成仏」と考えることを好みました。
人間のみならず、宇宙の中に満ち満ちてあるすべての存在が、等しく、同じ仏性をもつ。
この考え方は、中世になって初めて生まれたものではなく、さだまさしが「防人の詩」の典拠としたと言われる『万葉集』の歌の中でも、すでに、表現されていました。
有情と非情を連続した一体のものとして捉える、日本人が好んだこの世界観は、生命の出所や、宇宙の始原という「過去」に遡行しようとする姿勢と関係があります。
このように、「自然」「深層心理」「過去」は、ひとつながりの普遍性を帯びています。
次回は、最上位の層、「文明」「知性」「未来」が、どのような普遍性を目指すのか、考えてみたいと思います。

これを、前回の記事では、以下のようなヴァリエーションで表現しなおしてみました。



上の、いずれの三重構造においても、最上位の層と、最下位の層は、普遍性を帯びていたり、普遍性を志向したりする共通点をもっていると、前回の記事で述べました。
今回の記事では、最下位の層、「自然」「深層心理」「過去」に着目して、どうしてこの層が普遍性を帯びていたり、普遍性を志向したりすると言えるのか考えてみたいと思います。
まず「深層心理」を取り上げてみたいのですが、深層心理がなぜ普遍性をもつのかといえば、ユングという心理学者が提唱した「集合的無意識」という概念を一つの根拠として挙げることができます。
ユングは個人的な無意識の根底に、人類に普遍的な「集合的無意識(普遍的無意識)」の層が存在すると唱えました。
ユングよりはるかに古くから、大乗仏教も全く同じ考えを唱えており、大乗涅槃経には「一切衆生悉有仏性」(すべての人間は仏性を持つ)という普遍的な思想が掲げられていました。
しかし、大乗仏教を受け入れた日本人は、さらにその普遍性を押し広げました。
中世の日本で流行した「天台本覚思想」は、人間や動物のような「有情」(心をもつ)の存在だけではなく、草木や鉱物のような「非情」(心をもたない)の存在ですらも、同じ仏性をもつと唱えました。
日本人は、「一切衆生悉有仏性」では飽き足らず、「草木国土悉皆成仏」「山川草木悉皆成仏」と考えることを好みました。
人間のみならず、宇宙の中に満ち満ちてあるすべての存在が、等しく、同じ仏性をもつ。
この考え方は、中世になって初めて生まれたものではなく、さだまさしが「防人の詩」の典拠としたと言われる『万葉集』の歌の中でも、すでに、表現されていました。
鯨魚(いさな)取り 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干て 山は枯れすれ
【現代語訳】
海は死にますか 山は死にますか。死にます。死ぬからこそ潮は引き、山は枯れるのです
(出典: 『万葉集』第16巻第3852番)
有情と非情を連続した一体のものとして捉える、日本人が好んだこの世界観は、生命の出所や、宇宙の始原という「過去」に遡行しようとする姿勢と関係があります。
このように、「自然」「深層心理」「過去」は、ひとつながりの普遍性を帯びています。
次回は、最上位の層、「文明」「知性」「未来」が、どのような普遍性を目指すのか、考えてみたいと思います。
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