歴史を形作る目に見えない力について(13)

役小角、その野生のレジスタンス(5)
前回の記事で、役小角を讒言した律令政府の役人韓国広足と賀茂氏の氏神であった一言主大神。



この二者が、それぞれ、「官僚制度(律令制)」と「氏族制度(神祇信仰)」を象徴すること。

そして、律令国家日本の主要な構成要素となるはずであった、この二つの制度から、役小角が追放されたことをお話ししました。



さて、役小角が、官僚制度や氏族制度「から」追放されたとすると、彼はどこ「にむかって」追放されたのでしょうか。

彼が追放された土地は、律令によって「遠流」(おんる)の地に定められていた伊豆でした。

遠流

律令制における刑の一種。中国法の「流三千里」の制度を継受したもの。その配所は,神亀1 (724) 年の格によって,伊豆,安房,常陸,佐渡,隠岐,土佐の6国と定められている。遠流の実例は奈良,平安時代を通じて少くなく,特に平安期以降,死刑囚をすべて遠流に減刑する慣行が生じたために,その数が著しく増大している。

(出典: ブリタニカ国際大百科事典)


伊豆が「遠流」の地に定められていたのは、言うまでもなく、大和という「政治」の中心地から遠く隔たっていたからにほかなりません。

また、役小角が伊豆に流されたのは、記録に残る最初の南海トラフ巨大地震「白鳳地震」が684年に発生してから、十五年のことです。南海地震、東南海地震、東海地震が連動し、伊豆諸島では新しい島が誕生したと日本書紀には記されていますが、当時の伊豆には生々しい地震の痕跡が刻まれていたに違いありません。

壬辰。逮于人定、大地震。挙国男女叺唱、不知東西。則山崩河涌。諸国郡官舍及百姓倉屋。寺塔。神社。破壌之類、不可勝数。由是人民及六畜多死傷之。時伊予湯泉没而不出。土左国田苑五十余万頃。没為海。古老曰。若是地動未曾有也。是夕。有鳴声。如鼓聞于東方。有人曰。伊豆嶋西北二面。自然増益三百余丈。更為一嶋。則如鼓音者。神造是嶋響也。

【現代語】

十四日、人定(夜10時頃)に大地震があった。国中の男も女も叫び合い逃げまどった。山は崩れ河は溢れた。諸国の郡の官舎や百姓の家屋、倉庫、社寺の破壊されたものは数知れず、人畜の被害は多大であった。伊予の道後温泉も埋もれて湯が出なくなった。土佐国では田畑五十余万頃がうずまった海となった。古老は「このような地震は、かつてなかったことだ」といった。この夕、鼓の鳴るような音が、東方で聞こえた。「伊豆島の西と北の二面がひとりでに三百丈あまり広がり、もう一つの島になった。鼓のように聞こえたのは、神がこの島をお造りになる響きだったのだ」という人があった。

(出典: 『日本書紀』天武天皇十三年冬十月、現代語訳は宇治谷孟による)


伊豆の地名は、「出づ」という動詞に由来すると言われていますが、地震や火山や温泉のような地底に潜む自然の力が、活発に噴出する土地であるがゆえに「伊豆」と呼ばれたのであろうと考えられます。

自然の中に沈潜することによって、自然の中に潜在する巨大な力を「引き出そう」とした役小角が、自然の中に潜む巨大な力が「出づ」る土地、伊豆へと流されたことは、とても興味深い事実です。

そもそも役小角が、「官僚制度」や「氏族制度」と摩擦を起こすようになったきっかけ自体が、後に「修験道」として発展することになる、彼が自然の中にひきこもることによって独自に切り開こうとした山岳修行なわけですから、「政治」からの追放の原因としても、また「政治」からの追放の結果としても、彼は「政治」の領域の外側に、一つの独立性をもつ「非政治」の領域を自覚的に開拓していたことになります。

彼の山岳修行は、外来の仏教や道教の影響を被りながらも、縄文時代以来の古い自然崇拝を復古しようとする性格をもっていましたから、彼が開拓した「非政治」の領域は、「自然/歴史や心の最古層/新石器(縄文)的『野生の思考』」を主要な構成要素としていたとみなすことができます。



すると、「日本国」が立ち上がろうとしていた白鳳時代に、すでに下のような、国家と精神の三重構造が立ち現れていたことになります。



上にいくほど「政治」の度合いが強まり、下にいくほど「非政治」の度合いが強まります。

この三重構造は、日本国の全体像を俯瞰する上でとても重要なものです。

現代にまで至る、日本国のその後の歴史の展開において、この三重構造が果たした役割を、次回以降わかりやすく説明していきます。
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