参院選に向けた新たなミスリード

最近の三橋貴明が「財政政策」ばかり語る理由。
さらりと「水に流す」ことは、日本人の美徳の一つかもしれません。

しかし、わたしは、どんなに年月が流れようとも、三橋貴明が行ったこと、そのことから味わった悔しい気持ちを忘れることはないと思います。

2013年の初春、わたしたちが「安倍政権はTPP交渉に参加する」と警告の声を発していたとき、

三橋貴明は「TPPに関する報道はマスコミの飛ばしだ」ととぼけ、安倍政権への批判の声が上がるのを押さえようとしました。

2013年の春、わたしたちが、「安倍政権は予定通りの消費税増税を行う」と警告の声を発していたとき、

三橋貴明は、同じように「消費税増税に関する報道はマスコミの飛ばしだ」ととぼけ、安倍政権の本質に人々が気づかないように仕向けました。

2013年の6月、わたしたちが、「安倍政権は、構造改革を断行する、原理主義的なネオリベ政権である。衆参のねじれを維持しなくてはならない」と、安倍のロンドン講演の動画を示しながら訴えていたとき、

三橋貴明は「泥の中をかき分けるように安倍政権を支持し続けよ」と読者に呼びかけました。

2013年の7月、わたしたちが、「参院選で自民党に投票することは自分の首を絞める自殺行為であり、そのことを嘆く時がくる」と警告していたとき、

三橋貴明は、赤池まさあきというTPPにも消費税増税にも賛成する自民党のネオリベ政治家を指さして「正しい経済政策を完璧に理解している方であることを私は保証します。この方に投票してください」と読者に呼びかけました。

2013年の10月、安倍晋三が予定通りの消費税増税の決定を発表すると、三橋貴明は、それまでさんざん安倍政権への支持を煽ってきた自らの言論姿勢の誤りを認めて謝罪や訂正を行う代わりに、「(安倍政権)突然変わりましたよね」と公然と嘘を語り、選挙が終わり衆参のねじれが解消され、安倍政権がすでに強い政権基盤を手にいれた後になって、しかも「安倍政権に退陣せよというつもりはありませんが」という留保をわざわざ付け加えた上で、ようやく安倍政権に対する批判らしきものを行うようになりました。

彼は、今、消費税増税を煽った言論人を批判して、次のように語っています。

加えて、消費税増税を巡り無責任な容認論を語った連中、特に学者という立場でありながら、財務省の御用学者として増税を推進した連中に対する「処分」が必要になります。特に、政府の役職にありながら、消費税増税を出鱈目な理論で煽った伊藤元重(経済財政諮問会議の委員)および吉川洋(財政制度等審議会の会長)。この二人だけでも「処分」して欲しいと、心から願っています。
(出典: 三橋貴明ブログ「増税延期に関する産経新聞の報道を受け」2016年3月29日)

安倍政権への支持を煽り、衆参のねじれの解消に加担し、未曾有の国家破壊を行う基盤を安倍政権に与えることに寄与した自らの言論に関して、何の「処分」も受けることなく禊ぎを行わなかった言論人が、他の言論人(経済学者)の「処分」を求める。

三橋貴明のこのような姿勢を、わたしは「恐ろしいほど分厚い面の皮」と呼んで批判してきたのです。

最近の三橋貴明のブログを読むと、彼が、参院選を意識した新しい誘導を行っていることに気づきます。

それは、TPPや国家戦略特区などの「構造改革」の問題は比較的取り上げない一方、

財政出動、積極財政、インフラ投資、消費税増税延期、プライマリーバランス黒字化目標の撤廃などの「財政政策」をシングルイシュー(単一争点)として特化して取り上げていることです。

このことは最近の記事のタイトルを見るだけでも確認することができます。





しかし、すでに失敗であったことが明らかになって久しいアベノミクスの問題は、「財政政策」だけではありません。

これは三橋貴明自身も指摘していることですが、アベノミクスは、

「金融緩和」+「緊縮財政」+「構造改革」

という三つの経済政策の組み合わせによって構成されています。

この三つの組み合わせが、日本の社会や国柄や経済を根底から破壊しようとしています。

この中の「緊縮財政」のみに焦点を当てて、これを「積極財政」に置き換え、

「金融緩和」+「緊縮財政」+「構造改革」

という従来のアベノミクスを、選挙前の一時、

「金融緩和」+「積極財政」+「構造改革」

に入れ替えたところで、根本の解決にはつながりません。

「構造改革」によってバケツの底に大きな穴が開けられ、グローバルな秩序に属する人々や富裕層に富が集中し、末端に行き渡らない経済的格差が制度化された状態で、蛇口を大きくひねって水をじゃぶじゃぶと注いだところで、水(お金)がバケツ(国内)に滞留せず、乗数効果は働かないからです。

参考記事:
WJFプロジェクト「アベノミクスの本当のカラクリ」(2013年10月25日 )

新しい改正国家戦略特区法が閣議決定され、TPPが国会で審議されている中、参院選に向けての最大の争点は「積極財政か,緊縮財政か」ではありません。

「TPP(構造改革)をいかにやめさせるか」です。

TPP(構造改革)を断行しようとする自民党への不支持の姿勢を明確にし、TPP(構造改革)をやめさせ、バケツの底に開いた穴の修復を計った上で、「財政出動」や「積極財政」を呼びかけるならば意義があります。

しかし、TPPや国家戦略特区という「構造改革」の問題を黙認した上で、「財政政策」を参院選に向けた単一争点(シングルイシュー)としてしまえば、選挙対策としてなされる財政出動によって、経済の落ち込みに一時的にブレーキをかけることができても、持続的な経済の浮上にはつながりません。

また、一時的な財政出動や消費税増税延期という目の前につり下げられた餌に釣られて、参院選でふたたび自民党に勝利させ、安倍政権を長期化させてしまえば、そこに待ち受けているのは、「構造改革」が完遂されていく新しい地獄の三年間です。

なぜ、三橋貴明は、国会でTPPが審議されているのにもかかわらず、「構造改革」の問題を棚に上げて、「財政政策」に関心を集中させているのでしょうか。

それは、安倍政権(自民党)が、

1. 参院選後も「構造改革」を決してやめず
2. 参院選前に「財政出動」や「消費税増税延期」を行う可能性が高い

からであると考えられます。

自民党が「構造改革」をやめない以上、「構造改革」を争点化してしまえば、来る参院選において、三橋貴明は明確に反自民の立場に立たざるをえなくなります。

しかし、「構造改革」の問題を棚に上げて、積極財政やインフラ投資や消費税増税延期などの「財政政策」に特化して語り続けるかぎり、参院選までのあるタイミングで、安倍政権が「10兆円規模の景気対策」や「消費税増税延期」の発表を行う時期を迎えることでしょう。

すると三橋貴明は、「安倍さんはましになった」とか「自民党の中からまともな動きが出てきた」とか「アベノミクスは修正された」とか「本来のアベノミクスにもどりつつある」などといって、参院選で再び自民党を支持し自民党への投票を煽る口実を手に入れることができます。

実際に、参議院自民党は、所属議員の8割が参加する、地方へのインフラ投資を促進するための「故郷を支援する参議院の会」という議連を結成し、三橋貴明もこの議連(=参議院自民党)を絶賛し、これを支持するように、すでに読者に呼びかけを行っています。

以上のような思惑から、三橋貴明は、スティグリッツ教授が日本政府に対して行った提言(その中には緊縮財政のみならず金融緩和や構造改革への批判が含まれていた)の中から、財政出動や消費税増税延期という「財政政策」だけに着目する「いいとこ取りはやめよ」という中日新聞のまっとうな指摘を、次のように批判していました。

情けない話ではありますが、スティグリッツ教授の来日と提言で、何となく「財政政策やむなし」の醸成されつつあります。

と言いますか、
「え!? 消費税凍結や財政政策が正しいの!?(正しいです)」
 と、マスコミが混乱しているように思えるのです。 
 最も混乱しているのは、この新聞。

『経済分析会合 いいとこ取りはやめよ
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2016031702000122.html
政府が内外有識者の意見を聴く国際金融経済分析会合は、消費税増税延期や補正予算編成のお墨付きを得るためではないか。そんな臆測が強い。都合のいい部分だけを取り出してもらっては困る。(後略)』

中日新聞(東京新聞)は長年、反消費税の論陣を張っていたはずなのですが、なぜか社説で怒っています。

しかも、

「教授はやみくもに財政出動を促したわけではない。むしろ法人税減税は投資に寄与しないから反対し、炭素税や相続税、株などの譲渡益課税については増税すべきだと主張した。」

と、スティグリッツ教授の持論(法人税減税反対はわたくしの持論でもありますが)を持ち出し、財政出動に反対する「印象」の書き方をしており、わけが分かりません。

現在の日本にとって正しい政策は、

●消費税増税は凍結・延期(もしくは消費税減税)
●需要創出のための財政出動
●特に必要な財政出動はインフラへの投資
●法人税の無条件減税は投資拡大効果が薄いのでやらない


であり、少なくとも「消費税増税凍結・延期」は中日新聞のお気に召すはずなのですが、社説で猛烈に批判しています。

ついでに、
「具体的には賃金上昇と労働者保護を強める政策、財政出動なら教育や若者の健康への政府支出を求めた。」
と、中日新聞は書いています。実際には、スティグリッツ教授はインフラ投資に(も)支出するべきと語ったのですが、そこはスルー。と言いますか、インフラ投資について書いた記事は、ほとんどありませんでした。

(出典: 三橋貴明ブログ「TPPは悪い協定 米議会で批准されぬ」2016年3月18日)

三橋貴明が批判した中日新聞の社説は、次のような文章です。

経済分析会合 いいとこ取りはやめよ

政府が内外有識者の意見を聴く国際金融経済分析会合は、消費税増税延期や補正予算編成のお墨付きを得るためではないか。そんな臆測が強い。都合のいい部分だけを取り出してもらっては困る。

「消費税を増税するタイミングではない」「緊縮財政をやめ、政府支出の増加こそ望まれている」-。第一回の分析会合に招かれたノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ・米コロンビア大教授は、確かに消費税の延期や財政出動の重要性に言及した。

しかし、格差是正や幸福度の研究に目を向けてきた教授は、世界経済が抱える問題に幅広く提言したはずだ。最も重要な点は、景気は後退または停滞する可能性が高い中で、緩慢な成長の果実が一部のトップ層に偏り、格差が一段と拡大していると指摘したことだ。

景気低迷の原因は需要不足にあり、平等性を高める政策は需要を増やして効果的だと強調。具体的には賃金上昇と労働者保護を強める政策、財政出動なら教育や若者の健康への政府支出を求めた。

政権は、参院選を意識して補正予算編成のお墨付きとしたいのかもしれないが、教授はやみくもに財政出動を促したわけではない。むしろ法人税減税は投資に寄与しないから反対し、炭素税や相続税、株などの譲渡益課税については増税すべきだと主張した。

日銀のいわゆる異次元緩和政策についても「限界が近い」と指摘し、過度に金融緩和に依存する政策に警鐘を鳴らした。こうした「耳の痛い」提言こそ傾聴すべきで、消費税増税延期や補正予算編成の方便だけに利用することは許されない。

安倍晋三首相は一昨年、10%への消費税引き上げ延期を決めた際に「再延期はない。アベノミクスで増税できる経済環境にする」と明言した。増税を見送るなら、アベノミクスの失敗を認め、速やかに軌道修正すべきだ。有識者の提言を免罪符に増税延期だけ決めるのは筋が通らない。

だからといって、再び増税延期について国民に信を問うとして衆院を解散し、衆参ダブル選に打って出るのなら、ご都合主義も甚だしいと言わざるを得ない。

そもそも分析会合は、五月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向け、世界経済や金融情勢について有識者の意見を聴くというのが政府の説明だ。仮にも消費税増税や補正予算の判断に利用しようというのなら、納税者への裏切り行為ではないか。

(出典: 中日新聞2016年3月17日)

中日新聞は、「スティグリッツ教授は、緊縮財政だけをアベノミクスの問題として批判したわけではなく、トップ層に富を集中させ、格差を拡大し、需要を減退させる構造改革や、無節操な金融緩和の問題も合わせて批判していた。だから選挙対策の補正予算や消費税増税延期を行う口実に、スティグリッツ教授の提言の一部だけを取り上げて利用するのはおかしい」という至極まっとうな指摘を行っているわけですが、「財政政策」を参院選の単一争点としたい三橋にとっては、「いいとこどりをするな」=「財政問題だけに特化するな」という中日新聞の指摘はまことに不都合なわけです。

「財政出動をすべきだ」
「インフラ投資をせよ」
「消費税増税を延期せよ」

三橋のこれらの主張は、それ自体は、すべて正論です。

三橋の言論姿勢に疑問を持たない人であれば「そうだ、そうだ」とうなずいてしまうことでしょう。

しかし、正論を語ることによって間違った結果に巧みに誘導するのが、三橋貴明の常套手段です。

「正論」は、正しい文脈の中で語られた時に初めて「正論」となります。

積極財政や増税延期という「正論」(テキスト)が語られるべき文脈(コンテキスト)とは、「金融緩和」+「財政政策」+「構造改革」というアベノミクスの三つの矢の組み合わせであり、とりわけ、自民党政権が「成長戦略の切り札」「成長戦略の柱」と呼んではばからないTPP発効への道をひた走っているという目下の切迫した状況です。

彼(ら)は今回、「財政政策」の問題を前面に押し出すことによって、「TPP(構造改革)」という日本が瀕する最大の危機に煙幕を張り、自民党という「構造改革」実行政党への支持へと誘導するという手法を展開しています。

「TPPは日本の国家主権の喪失につながる」
「TPPは亡国をもたらす」

そのように語ってきた三橋貴明という反TPPの論客が、「10兆円規模の経済対策」や「消費税増税延期」や「インフラ投資」を口実に、TPPに参加しようとする自民党を支持するように読者に呼びかける。

そういうミスリードを三橋が今回の選挙でも繰り返していくことを、わたしたちは絶対に許してはなりません。
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