歴史を形作る目に見えない力について(5)

「日本」という国号の向こうに横たわる真の日本。
ヤマト王権に帰順する地方豪族の自治が許されていたクニやアガタのゆるやかな連合体であった「倭」が、白村江の戦い(663年)で、唐・新羅連合軍に大敗北を喫したことを契機に、戦勝国、唐から、皇帝の一元的・排他的支配を目指す「王土王民」思想の制度化であるところの律令制を導入し、「日本国」へと再編されていった白鳳時代。

白鳳時代とは、広義には、大化の改新(645年)から、平城京への遷都(710年)までを指す言葉ですが、年表を通して、あらためてこの時代を概観しておきたいと思います。

645年 - 大化の改新
663年 - 白村江の戦いで、唐・新羅連合軍に大敗し、百済国滅亡。
664年 - 対馬、壱岐、筑紫に防人を置く。筑紫に水城を築く。唐の郭務宗来日。
665年 - 筑紫、長門に築城。唐の劉徳高、郭務宗と来日、入京。
667年 - 近江遷都。倭国、讃岐、対馬に築城。唐の使者来日。
668年 - 天智天皇即位。近江令発令。
669年 - 大唐が、郭務宗ら2000余人を日本に派遣。
670年 - 庚午年籍。
671年 - 唐の副将郭務宗、兵2000名と倭国に来訪、捕虜兵1400を返還。天智天皇、近江宮で没。
672年 - 壬申の乱。弘文天皇(大友皇子)自殺。
673年 - 天武天皇(大海人皇子)即位。
681年 - 天武天皇、律令制定と国史編纂を命じる。
684年 - 白鳳地震(記録に残る最古の南海トラフ巨大地震)発生。
689年 - 飛鳥浄御原令公布。
690年 - 庚寅年籍。この頃、班田収授法施行か。
694年 - 飛鳥浄御原宮から、条坊制(碁盤の目)を採用した日本初の唐風都城、藤原京へ遷都。
701年 - 大宝律令発布。
710年 - 藤原京から平城京へ遷都。
712年 - 古事記完成。
720年 - 日本書紀完成。

日本書記は、律令制の導入が、大化の改新から始まったように記しており、学校教育でもそのように教えられてきましたが、実際には、もう少し後に行われた制度改革が、大化の頃から行われていたように日本書紀が潤色している、というのが、研究者の間の定説であるようです。(参照: 郡評論争)

年表からは、白村江の戦いの敗戦の直後から、唐から倭国へと頻繁に使節が送り込まれ、戦後処理がなされるのと並行して、おそらくは唐が主導する東アジアの国際秩序に倭国を調和させるために、そしてその秩序の中で日本の国威を高めるために、律令制の導入が積極的に推し進められていった様子がうかがえます。

この経緯は、黒船による砲艦外交を契機に、西洋の政治制度を導入した明治体制下の日本や、第二次世界大戦での敗戦を契機に、戦勝国アメリカによる国家改造を受け入れていった戦後体制下の日本と酷似しています。

律令体制、明治体制、戦後体制。いずれも、敗戦(もしくは外国の脅威)を契機に、外国の制度によって、国家改造を行った点で共通しています。

皮肉なことですが、右翼の人々が「日本の真の姿」と信じて憧憬を寄せる明治体制下(戦前)の日本は、西洋の立憲君主制を模倣したものでしたし、明治体制が回帰すべき原型とみなした律令体制も、中国の思想や制度を模倣したものでした。

つまり、彼らが「日本の真の姿」と信じているものは、実は単なる虚像や偶像に他ならない。

そもそも「日本」という国号そのものが、律令制の導入という、我が国のある種の中国化によって成立した概念であった。

前回の記事で、「仏」という概念(=偶像)を破壊し否定したときに、真の仏が立ち現れる、という禅仏教の考え方を紹介しましたが、「仏」のみならず「日本」についても同じ事が当てはまります。

律令政府の構成員たちの氏素性を記した紳士録という要素を含んでいた日本書紀や古事記の編纂を通して、律令体制の確立と維持のために、神祇信仰が制度化され体系化されていったまさにそのときに、時代や制度に背を向け、山の中に隠棲し、自然の力と一体であろうとした役小角。

彼は、「日本」という、当時、生まれたばかり国号や、導入されつつあった新しい諸制度の向こうに横たわる、むき出しの日本の姿や、その精神の古層にまなざしを注いでいたのかもしれません。

白鳳時代の異端児である役小角のこの姿勢は、国家主義が席巻していた戦時下の日本で、国家をも相対化してしまいかねない「自他平等」「怨親平等」という仏教思想に傾斜していった大日本帝国陸軍大将松井石根の姿勢に重なるものですが、役小角ゆかりの伊豆山に建てられた興亜観音のお話にたどりつくためには、もう少し遠回りをしなくてはなりません。
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