歴史を形作る目に見えない力について(2)

現実世界の動向を背後で決定している、潜在的な領域の支配者。
当ブログでたびたび引用してきた宗教学者の中沢新一氏は、伊豆山神社について次のように記しています。

わたしが中沢氏に共感を寄せるのは、「日本の根っこ」を縄文時代の地層まで掘り下げて、日本文明の多くの部分が依拠している「野生の思考」(神話の思考)を、文明の浸食から守ろうとする姿勢で思索し、論じているからです。それこそが、真に「保守」的な姿勢とはいえないでしょうか。

ここまで探求を進めてくると、テキストの冒頭部に語られていた謎のような内容についても、新しい視点が開かれてくるようになるから不思議である。たとえば、「翁」の示現を列挙した中に登場してきた伊豆の走湯山権現をとりあげてみよう。現在では走湯神社といえば、熱海温泉の近くにある伊豆山の麓の、海岸べりの洞窟にわき出している源泉湯のことをさしているが、『明宿集』の書かれた中世的な文脈で言うと、山の中腹の伊豆山権現とその奥の院である白山神社の全体が「走湯山」と呼ばれていた。つまり、金春禅竹に伝えられていた猿楽の徒の伝承では、麓に豊富な温泉を吹き出しているこの山そのものが、宿神としての「翁」の示現形態だとみられていたわけである。

どうしてそのようなことが考えられたのだろうか。鎌倉時代から南北朝時代にかけて著作されたと推測される『走湯山縁起』に、その謎を解く鍵がかくされている。それによると、その昔は日金山とも久地良(くじら!)山とも呼ばれたこの山に、伊豆山権現の社が建てられる以前から、この山には「白山明神」と「早追権現」という男女一対の地主神が棲んでいた。「白道明神」の「白」ということばは、あとで詳しく説明するように、シャグジや宿神と深い関係をもっている。強力な浄化力で、人に生まれ浄まわりをもたらすことのできる自然の威力に関わりのあることばである。

このテキストはその「白道明神」を、日金山の地中深くに穿たれた八本の地下道をあらわす男性神であると説明し、それにたいして女性型の「早追権現」は、その地下の穴道を自在に高速度で流動する「流れるもの」だと説明される。

あきらかにここには温泉の湧出と地下を流動する熱湯のイメージが働いているが、それが現実世界の動向を背後で決定している、潜在的な領域の支配者として描かれている。じっさい、このような形で自然力と直接態で結びついた霊的な存在こそ、宿神と呼ばれるにふさわしいのではなかろうか。

それだけではない。地下の穴道を流動する「力」のイメージは、すぐに地下に潜む龍ないし大蛇を連想させるだろう。じっさい「走湯山縁起』には、この地主神を地下の龍として描く、興味深い伝承も伝えられている。

豊かな湯量をもつ熱海温泉の存在が、人々の思考を刺激して、このような神話的イメージを生み出したのである。地下に吹き出してくる温泉からは、地中を流動しているとてつもない「力の流れ」と、それを遠く離れたパワースポットへ流動させつないでいくネットワーク上の通路のイメージが紡ぎ出されてきた。そして興味深いことに、地下の通路を動いていく龍の身体によってつながれていくパワースポットの多くが、『明宿集』のテキストでは宿神である「翁」の示現する聖地として取り上げられているのだ。

このように、金春禅竹が「翁と御一体である」として列挙していく列島各地の聖地の間には、現代の私たちには何かまだよく知られていない不思議なつながりが存在していた様子なのである。地下に棲む巨大な龍が結んでいくそのつながりは、おそらく地下界の龍をめぐる思考が盛んにおこなわれた新石器的世界観にまで、さかのぼっていくような性質をもっている。

(出典: 中沢新一『聖霊の王』)



伊豆山の麓の海岸べりにある温泉が噴出する洞窟「走湯」。「走湯山権現」の名前の由来となりました。



伊豆山神社の境内は、海岸べりの洞窟「走湯」から、837段の長い階段の参道を登りつめた場所に存在しますが、日金山(十国峠)を頂上とする伊豆山全体から見れば、標高の低い中腹部分にすぎません。





伊豆山神社の境内の裏には、枕草子でもとりあげられ、歌枕としていくつかの和歌の中でもうたわれてきた「古々比(ここひ)の森」という森が拡がっています。その森の中にごろごろと転がる磐座の一つに「白山明神」をまつる古い祠が建てられています。



同じ山中にある、「早追権現」の祠。

この記事のシリーズでは、出雲、熊野、大和、伊豆、そして現代をつなぐ、地底の龍にもなぞらえられる、ある目に見えない「力」が、「現実世界の動向を背後で決定している、潜在的な領域の支配者」として、いかに私たちの国の歴史を形作ってきたかを明らかにしていきます。
*
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

WJFプロジェクトについて
ご寄付のお願い
作品リスト
政治的立場
WJFプロジェクトは、日本の主権、伝統、国柄を守る保守的な観点から、安倍政権が推し進めるTPP参加、構造改革、規制緩和、憲法改正、安保法制、移民受入などのグローバル化政策に反対しています。
TPP交渉差止・違憲訴訟の会
YouTube
WJFプロジェクトの動画作品は以下のYouTubeのチャンネルでご覧になれます。

お知らせ
アクセス・カウンター


今日の一言
蓮舫の二重国籍問題のジレンマ

違う入り口を選んだハズなのに、ドアを開けると、同じ出口につながっている。
最新記事
コメント
<>+-
アーカイブ


RSSリンク
RSSリーダーに下のリンクを登録されると、ブログの記事やコメントの更新通知を受け取ることができます。