小説「グローバリズムと神道」(1)
第一章: 垂直方向上方から降りかかるもの (1)
「明治の開国によって、我が国は、アジアで最初の近代化に成功し、大きな飛躍と発展を遂げました。あれから、ちょうど一五〇年が経過した三年前、我が国は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった価値観を共有する環太平洋の国々と共に、公正で開かれた経済圏を作るため、TPP協定への批准を果たし、新しい百年への扉を開くことができました。わたくしは、日本の総理大臣として、二度目の東京オリンピックというこのグローバルなスポーツの祝典祭典を通して、世界の皆さんと共に、我が国の新しい門出を祝うことができることを、心からうれしく思います。」
誇らしげな表情をたたえた、あの男の、以前にもましてむくみきった顔がテレビ画面いっぱいに映し出されたとき、私は、思わず目を背けずにはいられなかった。
二〇二〇年七月二十四日。
本日は、東京オリンピックの開会式の催行日。五輪開会に先立って、昨日行われた総理大臣会見の様子が再放送されていたのである。
そうだ。あの男は、自民党総裁公選規程の改定によって、政権発足から数えて八年が経過したする二〇二〇年の今日も、総理大臣の椅子に座り続けている。
福島の汚染水は「アンダー・コントロール」の状態にあると、あの男が、世界中の人々を欺いて勝ち取った五輪招致。それは「勝ち取った」というよりは、国民の上に「降りかかった」、一つの災厄に他ならないことが明らかになるまで、多くの時間を要さなかった。
TPP批准から三年が経ち、私たちの国の風景はすっかり変わり果てた。もうどうにも後戻りのできない段階まで、この国の形は壊れている。私は、国の亡びを食い止めることのできなかった、敗れた国の、敗れた世代の一人である。
なぜ、こうなってしまったのか。
いつか、未来のどこかの時点で、私たちが犯した過ちを糺してくれる知恵と勇気のある人々が現れることを願って、私は、ここ数年におきた変化をつぶさに振り返り、書き記さずにはいられない
たとえ、この手記が、地球外の知的生物に向けてパイオニア探査機と共に打ち上げられ,今も宇宙のどこかを漂うであろう、あの金属板のように、誰の目にもふれることのない独白に終わったとしても。
(つづく)
誇らしげな表情をたたえた、あの男の、以前にもましてむくみきった顔がテレビ画面いっぱいに映し出されたとき、私は、思わず目を背けずにはいられなかった。
二〇二〇年七月二十四日。
本日は、東京オリンピックの開会式の催行日。五輪開会に先立って、昨日行われた総理大臣会見の様子が再放送されていたのである。
そうだ。あの男は、自民党総裁公選規程の改定によって、政権発足から数えて八年が経過したする二〇二〇年の今日も、総理大臣の椅子に座り続けている。
福島の汚染水は「アンダー・コントロール」の状態にあると、あの男が、世界中の人々を欺いて勝ち取った五輪招致。それは「勝ち取った」というよりは、国民の上に「降りかかった」、一つの災厄に他ならないことが明らかになるまで、多くの時間を要さなかった。
TPP批准から三年が経ち、私たちの国の風景はすっかり変わり果てた。もうどうにも後戻りのできない段階まで、この国の形は壊れている。私は、国の亡びを食い止めることのできなかった、敗れた国の、敗れた世代の一人である。
なぜ、こうなってしまったのか。
いつか、未来のどこかの時点で、私たちが犯した過ちを糺してくれる知恵と勇気のある人々が現れることを願って、私は、ここ数年におきた変化をつぶさに振り返り、書き記さずにはいられない
たとえ、この手記が、地球外の知的生物に向けてパイオニア探査機と共に打ち上げられ,今も宇宙のどこかを漂うであろう、あの金属板のように、誰の目にもふれることのない独白に終わったとしても。
(つづく)
(執筆予定)
第一章: 垂直方向上方から降りかかるもの
第二章: 垂直方向下方に横たわるもの
第三章: 水平方向後方から呼びかけるもの
第四章: 水平方向前方に待ち受けるもの
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