一瀉千里の奔流となり得る日(結語)

「神話」+「文明」=「日本」。
「彼らはみなよく肥え、身なりも良く、幸福そうである。一見したところ、富者も貧者もない。これがおそらく人民の本当の幸福の姿というものだろう。私は時として、日本を開国して外国の影響を受けさせることが、果たしてこの人々を本当に幸福にするのかどうか、疑わしくなる。」

(出典: 初代アメリカ駐日総領事 タウンゼント・ハリス)

「これほど簡素な生活なのに満足している住民は初めて見た。農漁業を営む千四百人の住民中、一生のうちによその土地へ行ったことのあるものは二十人といないそうだ。村民たちは自分たち自身の風習にしたがって、どこから見ても十分に幸福な生活を営んでいる」

「平野だけでなく丘や山に至るまで肥沃でよく耕され、山にはすばらしい手入れの行き届いた森林があり、杉が驚くほどの高さにまで伸びている。住民は健康で、裕福で、働き者で元気が良く、そして温和である」

「確かにこれほど広く一般国民が贅沢さを必要としないということは、すべての人々がごくわずかなもので生活できるということである。幸福よりも惨めさの源泉になり、しばしば破滅をもたらすような、自己顕示欲に基づく競争がこの国には存在しない」

(出典: 初代イギリス駐日総領事 ラザフォード・オールコック)

下流の人民は例外なしに、豊に満足しており、過労もしてゐないやうだつた。貧乏人のいる様子も見えたが、乞食のいる証拠はなかつた。人口過剰なヨーロッパ諸地方の多くの処と同じく、女達が耕作労働に従事しているのもたびたび見え、人口稠密なこの帝国では誰でも勤勉であり、誰をでも忙しく働かせる必要があることを示していた。最下流の階級さへも、気持ちのよい服装をまとい、簡素な木綿の衣服をきていた。

(出典: アメリカ東インド艦隊司令長官マシュー・ペリー)

「神話」と「文明」が一つに結ばれてかつての日本は、明治の近代化以降すっかり姿を変えて、「神話」と「文明」を切り分ける罠、すなわち日本を解体に導く罠は、現代社会の至るところに仕掛けられています。

――息子の休学宣言には困惑しましたが、取材を進めていくと、いま、就活をしない学生が少しずつ増えていることが分かってきました

もう10年くらい前からの傾向です。何十社、何百社にエントリーし、勝ち抜いた者が成功者で、負けた者は二十歳少し過ぎたところで人生の敗残者、というような競争にさらされてきた先行世代を見て、揺り戻しが来ている。そんな競争に勝ち残ってもたいして明るい未来が開けるわけでもない。こんなやり方がいつまでも続くはずがないと直感しているんです。

就活をしない若者たちは、概して無欲です。車やバイクも洋服もいらない。海外旅行もしない。ミシュランの星つきフレンチで高いワインを飲みたいとも別に思わない。いま、センスのいい若者で、バリバリ上昇志向っていう人はほとんど見かけませんね。大学院に行ったり、仲間と起業したり、ボランティア活動に携わったり、農業をやったり。昔のようにイデオロギーや宗教に凝り固まるわけでもなく、ナチュラルに、でも、堅実に生きているように見えます。

――でも、大多数は就活に必死で取り組み、親も社会もそれを後押ししています

だから、ますます若者が苦しい立場になっていくんです。いまの就活は、とにかく狭い市場に学生を押し込もうとする。当然、買い手市場になり、採用する企業はわずかなポストに群がる求職者たちの中から、能力が高く賃金の安い労働者をよりどりみどりで選べる。『キミの代わりはいくらでもいる』という言葉を採用する側が言える。これが一番効くんです。

でも、本当は、若者の手助けを求めている職場はいくらでもあるんです。中小企業もうそうですし、農業林業漁業のような第一次産業、武道でも能楽でも伝統文化も継承者を求めている。でも、そういう無数の就職機会があることを就職情報産業は開示しない。そして従業員1000人以上の一部上場企業に就職しないと敗残者であるかのような幻想をふりまいている。大学を卒業したら、スーツを着て毎日満員電車で出勤して、朝から晩まで働く以外に仕事はないと教え込んでいる。

――何だか、わが子が大きな罠に絡め取られていくようです

就活は、能力が高くて安い賃金で働く若年労働者を大量に備給して欲しい経済界の要請により、経済産業省や文部科学省と就職情報産業が共謀して作り出した仕組みです。大量の学生たちを希少な就職機会に押し込むから、倍率ははね上がる。何十社も採用試験に落ち続けた学生たちは自尊感情を損なわれ、自己評価が下がり、最後は『どんな条件でも働きます』と採用側にすがりつくようになる。

文科省と経産省が仕掛けている『グローバル人材育成戦略』を読むと、気分が滅入ってきます。グローバル人材というのは、要するに英語ができて、タフなネゴシエーションができて、辞令1本で翌日から海外に赴任できるような人間のことだと言われています。

でも、辞令1本で翌日から海外勤務ができる人間って、要するに『その人がいなくなると困る』という人が周りにひとりもいない人間のことですよね。その人を頼りにしている家族も友人もいない、地域社会でも誰からも当てにされていない。I cannot live without you と言ってくれる人がひとりもいない人間になるために努力をしろというのが『グローバル人材育成戦略』なんです。

――いいえ、子どもには、社会から必要とされる人間になれと言ってきました

そうでしょう。それが親として当然のことです。でも、政府も企業も若者たちの市民的成熟や個人的な幸福には何の関心もない。彼らが求めているのはいくらでも替えの効く、使い捨て可能の『人材』なんです。

政治家もビジネスマンもメディアも『国際競争力を高めなければ日本は生き残れない』と盛んに言い立てますけれど、彼らが言っている『国際競争』というのは平たく言えばコストカットのことなんです。中国や韓国やインドとの競争というのは要するにコスト削減競争のことなんです。同じ品質の製品をどれだけ安く製造できるかを競っている。その競争での最大の障害になっているのが日本の人件費の高さです。これを切り下げないと世界市場では戦えない。そういう話になっている。

(出典: 内田樹の研究室)

就職活動に悩む若者たちのみならず、現実生活の辛苦を通して、現代日本人の多くは、次のように感じているかもしれません。

長い間こづきまはされながら
舐められながらしぼられながら
假装舞踏会まで敢えてしながら
彼等に學び得るかぎりを學び
彼等の力を隅から隅までを測量し
彼等のえげつなさを滿喫したのだ

これが唯一あるべき日本の姿だというのならば、私たちは、勇気を出して、次のように宣言するべきです。

今こそ 古しへにかへり源にさかのぼり
一瀉千里の奔流となり得る日がきた。

これまで見てきましたように、「一瀉千里の奔流となる」とは、「神話」と「文明」を一体化させること。

「神話」と「文明」を一体化させるとは、各自が自分自身の根っこや魂を深め、心の深部にあるものを、どんなにささやかなものであれ、社会的に実体をもつものとしてなんらかの形に表すことだと思います。

私たち一人一人が、「神話」(魂)と「文明」(社会的営み)がひとつながりになった生き方を、深めていくことが必要なのだと思います。

「一瀉千里の奔流となり得る日」(了)
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